ウィーン・フィルによるニューイヤーコンサートとは?!
1月1日になると、毎年世界90ヵ国以上の国で放映されるコンサートがあることはご存知でしょうか? それはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサートです。日本でも19時15分からNHKで放送されています。このように世界中で楽しまれるこのニューイヤーコンサートとは、いったいどんなコンサートなのでしょうか? 今回はこちらのコンサートについて探っていきたいと思います。
1 ニューイヤーコンサートの見どころ
ニューイヤーコンサートは、毎年1月1日現地時間の11:15からウィーンの楽友協会 (ミュジークフェライン Musikverein) 黄金の間で行われます。このコンサートの特徴は、まず演目のほぼすべてがヨハン・シュトラウス ファミリーによる作品だということです。(このファミリーについては、後ほど3の項目で紹介します)
けれど、その年によって演奏される曲目は変わります。そして、曲目が変わるだけではなく、重要なことのひとつは指揮者なのです。誰が指揮をするか、ということにより、演奏される音楽は変わってくるのです。世界中の著名な指揮者が、毎年このステージに登場します。毎年元旦にコンサートが終わると、翌年の指揮者が発表されます。
2022年のニューイヤーコンサートの指揮者は、ダニエル・バレンボイムでした。彼がニューイヤーコンサートの指揮者として登場したのは2009年と2014年以来3回目でした。バレンボイムにとって、2022年は80歳の誕生日を迎えるという記念すべき年なのです。そのほか、日本の名指揮者、小澤征爾も2002年にこのコンサートで指揮をしています。
ニューイヤーコンサートは第1部と第2部に分かれており、その間に休憩時間が入ります。しかし、テレビではこの間の時間もまた欠かせない見どころとなります。ウィーンフィルが奏でる演奏と共に、オーストリアの景勝地の映像が流れるのです。2022年はオーストリアの世界遺産が紹介されました。ウィーンのシェーンブルン宮殿、ドナウ川沿いのバッハウ渓谷、グラーツ、オーストリアの山塊ダッハシュタイン、オーストリアの湖水地方ザルツカンマーグートやザルツブルグなど、オーストリアの魅力を存分に楽しめる25分でした。個人的には、ダッハシュタインの展望台、5(ファイブ)フィンガーズに6人の楽団の方が立ち、軽快なジャズのような音楽を奏でたシーンがとても心に残りました。
さて、演目はその年により異なるのですが、最後の2曲は定番となっています。最後から2番目の曲は、『青き美しきドナウ』です。このワルツはおそらくほとんどの方が必ず耳にしたことがあるのではないでしょうか。そして、この曲が始まる前に、指揮者とウィーン・フィルの楽団員が新年の挨拶「Prosit Neujahr 明けましておめでとう」を叫ぶのが恒例となっています。指揮者によりこの演出も異なるので、それを見ることも楽しみのひとつとなります。
そして、最後の曲は、『ラデッキー行進曲』です。この曲もおそらくみなさんご存知でしょう。この軽快なマーチでは、会場中のみんなが一体となり手拍子を合わせて参加できるのです。ただし、手拍子をせずに静かに聞かなければいけないパートもあるので、ちゃんと指揮者の指示に従ってくださいね。
2 実は3日間同じコンサートが行われている
ニューイヤーコンサートのことを知ると、一度は実際にウィーンの会場に行って聞いてみたいと思いますよね。けれど、このコンサートのチケット入手は非常に難しく、また驚くほどに高額となっています。そもそもウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会のチケットは、会員のために販売されるチケットなので、一般販売はされないのです。ですが、すべての会員の方が必ずコンサートを訪れるとは限らず、キャンセルされるチケットが出てきます。そう、一般の方が入手するためにはキャンセル待ちリストに申し込まなければいけないのです。ただし、入手できるかどうかは、直前までわかりません。しかも入手できたとしても、それは高額となります。通常の定期演奏会のチケットでも入手困難なのですから、1月1日に行われるニューイヤーコンサートのチケットとなると、それはまた一段と入手困難で、特別に高額になることは容易に想像できるかと思います。
ここで一つ耳寄りな情報をお届けします。実はこのニューイヤーコンサートと同じ指揮者・同じ演目のコンサートは、12月30日と31日にも行われているのです。
12月30日はGeneralprobe(ゲネラルプローべ)、いわゆるゲネプロと呼ばれる一般公開されるリハーサルが行われます。そして、12月31日 の大晦日の夜には、Silvesterkonzert(シルベスターコンサート)と呼ばれるコンサートが行われます。どちらも会場は、同じ楽友協会ミュジークフェラインの黄金の間です。こちらのチケットももちろん入手は簡単ではありませんが、ニューイヤーコンサートに比べれば少しだけハードルが下がります。
ウィーンでニューイヤーコンサートを聞いてみたいという方は、年末のこの2つのコンサートも視野に入れておかれると良いでしょう。いずれにしても、ウィーンフィルのウェブサイトなどで申し込みをして、そのまま入手できる可能性は残念ながらほぼゼロなのです。興味のある方は、旅行会社やチケット会社などに相談されることをお勧めします。
3 ヨハン・シュトラウス ファミリー
1でご紹介した『青き美しきドナウ』はヨハン・シュトラウス2世の作品、そして『ラデッキー行進曲』はヨハン・シュトラウス1世の作品です。ヨハン・シュトラウス1世と2世、同じ名前の父子は共にワルツの発展に尽力しました。
19世紀ウィーンでは3拍子のワルツが流行していました。そしてその後、ウィンナー・ワルツの黄金時代が訪れます。ワルツはヨーロッパ中にも広まり、「ワルツ王」と呼ばれる作曲家が現れました。それは、息子のヨハン・シュトラウス2世なのです。
ヨハン・シュトラウス1世、こちらを父ヨハンと呼ぶことにします。父ヨハンは息子ヨハンが誕生した1825年には、ワルツの創始者と言われるヨーゼフ・ランナーと共にすでにワルツの作曲家として活躍していました。しかし、父ヨハンは息子たちには音楽家になって欲しくないと思っており、ヨハン、そしてヨハンの弟のヨーゼフとエデュアルトにとって、市民の教養としてのピアノだけが唯一触れることのできた音楽でした。そんな中でも、ヨハンは音楽家としての才能を開花させていき、母親のアンナはそんなヨハンを応援しました。やがて父ヨハンは愛人を作り、家庭を顧みなくなります。ヨハンにはそんな父ヨハンに対する復讐心のようなものが芽生えていくのです。独学で音楽を学び、ついに音楽家としてのデビューを果たします。そして、父と息子はライバルとなってしまったのです。
その後両親は離婚、ライバル同士であった父子の関係は、和解し協力し合う関係にまでなったそうです。
父ヨハンの死後、ヨハンは多忙を極め、体調を崩すまでになります。そして、母アンナの勧めにより次男のヨーゼフ、そして三男のエデュアルトも音楽家としての活動を始めるようになりました。
ニューイヤーコンサートで演奏される曲は、ヨハン・シュトラウス2世の作品が多いのですが、ヨハン・シュトラウス1世、ヨーゼフ・シュトラウス、エデュアルト・シュトラウスの曲が選ばれることもあります。2022年には、ヨハン・シュトラウス2世の有名な作品、『皇帝円舞曲』や『ウィーンの森の物語』などは演奏されず、エデュアルト・シュトラウスの作品が2曲も選ばれました。
ウィーンの市立公園の中には様々な音楽家の像がありますが、とりわけ華やかな観光スポットとなっている像が、ヨハン・シュトラウス像です。黄金に輝くバイオリンを手にしている像。こちらも息子の2世の像です。ウィーンを訪れた際には、このシュトラウス像を訪問し、ヨハン・シュトラウス2世に挨拶をしてみてはいかがでしょうか。