音楽初心者だけど知りたい!ショパンコンクールについて学ぼう

Chopin_church_waw
もわりー

2021年10月に行われた第18回ショパンピアノコンクールでは、第2位に反田恭平さん、第4位に小林愛美さんが入賞されました。普段ピアノに親しみのない方でも、このお二方のご活躍をテレビや新聞などでご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、そんなショパンピアノコンクールとはどういうものなのか、日頃音楽に触れていない方でも興味を持てるように、まとめていきたいと思います。

1 ショパンコンクールとはどういうもの?

スポーツの世界では各種目により国際競技大会がありますが、音楽の世界では国際コンクールによって腕を競います。その中でも世界三大コンクールと呼ばれているものがあります。

*ロシアのチャイコフスキー国際コンクール
*ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクール
*ワルシャワのショパン国際ピアノコンクール

ショパンコンクールは、この3つの中に含まれる名誉ある大会なのです。チャイコフスキー国際コンクールとエリザベート王妃国際音楽コンクールは4年ごとに開かれ、ピアノ・バイオリン・チェロ・声楽など多岐にわたる部門があります。しかし、ショパンコンクールはこの2つともまた違います。開催は5年に一度、そして名前の通りピアノだけ、それもショパンの曲だけで競われるという特別なコンクールなのです。

正式名称は、ショパン国際ピアノコンクールですが、ここではショパンコンクールと記載します。第1回目が開催されたのは、1927年でした。

ショパンコンクールが行われるポーランド、ワルシャワは、近隣国から支配され続けた歴史があります。18世紀にはロシア・プロイセン・オーストリアによりポーランド分割が行われ、ポーランド王国は消滅してしまいます。しかし、第一次世界大戦中にソビエト政権が確立し、1918年ポーランドも独立を果たしたのです。そしてその9年後、戦争で疲弊した心を癒し、21歳でパリへ移住してしまったショパンの音楽を、祖国であるポーランドで讃えることで愛国心を呼び覚まそうという意図から、フレデリック・ショパン研究所によりショパンコンクールが主催されたのです。

ショパンコンクールは、ショパンの命日10月17日を挟んで3週間にわたり開催されます。規定は改定されていきますが、今は16歳以上30歳以下の方に出場権利があります。

2 歴代入賞者とポーランドの歴史

世界三大コンクールの一つになっているだけに、これまで名前を耳にしたことのある有名な方々が入賞していますので紹介したいと思います。

その前に、少しポーランドの歴史について触れておきます。

先ほど1918年にポーランドが独立をしたことを書きましたが、その後1939年第二次世界大戦で再びポーランドはソ連・ドイツに分割占領されてしまいます。ポーランド政府はロンドンに亡命し、ポーランド政権を樹立します。ポーランドでは、1944年ナチスドイツ支配からの開放を求め、ワルシャワ蜂起が起こりますが、ソ連軍の支援を得られずドイツに降伏。その後、1945年ソ連がポーランド東部を併合し、ポーランド共和国が建設されます。ついにドイツ人は国外へ強制退去させられ、ロンドン亡命政府と共産主義政権が合同して国民統一政府が発足します。そして、ソ連はポーランドの国内外への政策に干渉し、ポーランドはソ連の傀儡国家となるのです。1952年国名をポーランド人民共和国に改めます。

こんな状況の中で行われていたショパンコンクールなので、1955年の第5回まで入賞者はソ連とポーランド出身の人たちが占めていたのです。

そんな中、風が変わったのが1960年の第6回大会でした。

イタリア出身のマウリツィオ・ポリーニが栄冠に輝いたのです。ポリーニの圧倒的なピアノ演奏は、審査員全員一致で優勝が決まりました。審査委員長のアルトゥール・ルービンシュタインは、「今ここにいる審査員の中で、彼よりうまく弾ける人がいるであろうか」という言葉を残したそうです。そして、ポリーニはその後、世界的な名ピアニストとして活躍をするのです。

その後、西側諸国出身の入賞者が輩出されるようになるのです。

下記に、過去ショパンコンクールで入賞された方々を紹介します。

第7回1965年の優勝者は、アルゼンチン出身 マルタ・アルゲリッチ。
鍵盤の女王との異名を持つ天才ピアニストです。

第8回1970年には、日本人の内田光子さんが2位に入賞します。内田光子さんは、1972年に拠点をロンドンに移して活動されています。

第11回1985年に1位に入賞したのは、ロシアのピアニスト、スタニスラフ・ブーニン。この優勝を機に、日本でも「ブーニン・フィーバー」を巻き起こし、頻繁に日本公演も行っていました。そして日本人とご結婚され、日本にも家があるそうです。

第12回1990年には、横山幸雄さんが3位に入賞しています。
横山さんは、日本に拠点を置いて活躍されています。ピアノ活動の一方でイタリアンレストランも経営しているようで、そのレストランでもリサイタルを開いています。独特なユーモアのある方です。

そして、この度受賞された反田さん・小林さん。今後の活躍が楽しみですね。

ポーランドは1989年に自由選挙を実現して民主化を果たします。そして、この動きが東ドイツ、チェコスロバキアなど東欧諸国の民主化へと波及していったのです。

3 コンクールの流れ

ショパンコンクールは3週間にわたり行われます。その期間だけでも十分に長いのですが、実際このコンクールに出場するまでにも、予備審査があります。

まずは、書類審査。自身のピアノ歴などの記載と、世界で名を馳せている教授などからの推薦状が必要になります。そしてそれと同時に、ビデオ審査があります。課題曲を録画したビデオを送るのです。この審査結果が発表されるのが、3月初めころ。

この審査に合格すると、次はライブでの審査になります。けれど、これもまだコンクールではなく、事前審査(予備予選)と呼ばれます。ライブなので、この時点で一度ワルシャワへ渡ることになります。こちらの結果が出るのが、4月の終わり。
2021年は4月の予定が延期され、7月に行われました。

この事前審査に合格して、ようやく10月のショパンコンクールへの参加が決まります。

コンクールでは、1次予選、2次予選、3次予選の後、本選となります。

課題曲は全てショパンの曲です。ショパンは肺結核のため39歳という若さでこの世を去りました。そして、その短い人生の間には、なんと200曲以上もの作品を残しているのです。それもそのほとんどがピアノ独奏曲です。課題曲は全てショパンの曲、と言っても200曲以上もある中から選ばれることになるのですから、楽曲の広さは並大抵ではありません。

第18回の課題曲を例に見ていきましょう。

ビデオ審査と一次予選は同じ課題曲となっており、そこから4曲を選びます。それぞれ指定されたエチュードから2曲、ノクターンまたはエチュードから1曲、バラード、舟唄、幻想曲スケルツォから1曲となります。演奏時間は30分です。

事前審査(予備予選)のライブでは、6曲。さらにマズルカ2曲が加わるのです。

そして、10月のショパンコンクール1次予選では、80名のコンテスタントが参加します。そこで人数は半分にしぼられ、40名が2次予選に進みます。

2次予選の課題曲は4曲。また楽曲別に曲が指定されており、バラード、舟唄、幻想曲、スケルツォ、幻想ポロネーズから1曲、ワルツから1曲、ポロネーズから1曲、そして演奏時間が30〜40分となるようにその他任意のショパンの作品から1曲を演奏します。

そして、20名が進んだ3次予選での演奏は3曲。
ピアノ・ソナタ第2番、ピアノ・ソナタ第3番、24のプレリュードの中から1曲、指定された作品番号のマズルカを選んで全曲、加えて演奏時間が45〜55分となるようにその他任意のショパンの作品を1曲。

最終的に、ファイナルの本選には10名の方が進みます。

本選はオーケストラとの共演になります。
ピアノ協奏曲第1番または第2番のどちらかを選びます。
ショパンが書いた協奏曲(コンチェルト)は、この2曲のみなのです。

80名からスタートして、一人ずつ30分から1時間近く演奏をしていくわけですから、1次予選からファイナルが終わるまで、3週間かかるというのもうなずけます。

この演奏はすべて、ライブ配信されるのです。会場に足を運ばずとも、コンテスタントの演奏をすべて聞くことができ、緊張しながら結果を待つことができるわけですから、ピアノファンには嬉しい限りです。

けれど、実際にワルシャワのフィルハーモニーホールを訪れて、コンテスタントたちの演奏をライブで聞くことにはやはり憧れますね。

4 ピアノ選び

ピアノを弾く人にとって、どのピアノを使うかということは、とても大切なことです。写真が好きな人がどのカメラを使うか、車が好きな人がどの車に乗るかを選ぶことと同じです。そして、コンクールという大きな発表の場で、どのピアノを弾くのかということはとても重要なことなのです。

ショパンコンクールでは、4つのピアノが用意されており、コンテスタントはコンクールが始まる前に、1人15分の時間が与えられピアノを選ぶことができます。

2021年の第18回コンクールでは、5つのピアノが用意されていました。

*スタインウェイ(Steinway & Son) 479と300の2種類
*ファツィオリ(FAZIOLI)
*カワイ(KAWAI)
*ヤマハ(YAMAHA)

日本人にとって、カワイとヤマハはすでに聞き知った名前でしょう。どちらも静岡県浜松市に本社を置く楽器の会社。ヤマハは1887年(明治20年)創業以来130年以上もの歴史を誇る楽器製造会社。ピアノにとどまらず、管楽器・弦楽器など幅広いジャンルの楽器を扱うほか、音響機器なども手がけています。一方河合楽器は1927年(昭和2年)ピアノづくりに情熱を注いで創業され、歩みを続けている会社です。

スタインウェイは、ドイツ人によって1853年ニューヨークで設立されたピアノ製造会社。現在もハンブルクとニューヨークに工場があります。ショパンコンクール第1回の1927年から公式ピアノとして使用されており、このコンクールで最も長く使われているピアノです。

そしてファツィオリ。1981年にパオロ・ファツィオリがイタリアで創業したピアノメーカー。創業者であり現社長であるファツィオリ氏は、家具職人の家に生まれ、このピアノも精巧な手作業によるところが多く、世界で一番高額なピアノとして知られているのです。

公式ピアノは、運営側からメーカーに依頼されるのではなく、各ピアノメーカー側からコンクールの運営組織に応募し、審査されて決定されるそうです。

ショパンコンクールで使用されている年数が一番長いスタインウェイが、やはり支持率が高く人気のようです。けれど、第16回の優勝者ロシアのユリアンナ・アブデーエワはヤマハのピアノを使用、第17回でも2位に入賞したカナダのシャルル・リシャール=アムランもヤマハの楽器を使用するなど、ヤマハ人気も高まっていました。

そして、今年行われた第18回では、優勝者ブルース・リウはファツィオリ、第2位の反田恭平はスタインウェイ、アレクサンダー・ガジェヴはカワイ、第3位のマルティン・ガルシア・ガルシアもファツィオリという選択をしました。

それぞれのピアノにより、明るく派手な音色や温かいのある優しい音色であったりと各々奏でられる音に特徴があるようです。ピアノとの相性は、選曲や奏者により異なるということなのでしょう。

ショパンコンクールについてお話ししてきましたが、興味が湧いてきましたか?
5年に一度のショパンコンクール、日本の旅行会社もコンクールを鑑賞するツアーを企画しているようなので、是非実際にコンクールを聞きにワルシャワを訪れてみてくださいね。

ポーランド・ワルシャワでのショパンゆかりの地についての記事も、ぜひ合わせてお読みください。

旅がもっと面白くなる!ポーランド編 ショパンゆかりの地を訪ねよう

ABOUT ME
もわりー
もわりー
日本→ウィーン15年→現在ロンドン在住です。
書くこと・なにかをつくり出すことが好きです。

記事を読んでいただいた方をステキな旅へと案内できたら、そんな思いで書いていきます。

どうぞよろしくお願いします。
記事URLをコピーしました