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旅がもっと面白くなる! イギリス湖水地方 ピーターラビット作者 ビアトリクス・ポターの想い

もわりー

イギリスの北西部に、レイク・ディストリクト(Lake District)と呼ばれる湖水地方があることをご存知でしょうか?

その名のとおり、多くの湖が点在し、山に囲まれた緑とブルーの自然を満喫できる場所として、世界中の観光客から愛されている場所です。

ここはまた、あのかわいいウサギの絵本『ピーターラビット』の舞台としても知られています。湖水地方を訪れると、さまざまなところでこのウサギのキャラクターに出会います。

今回は、この湖水地方を語る上で是非知っておきたい人物、<ピーターラビット>シリーズの作者、ビアトリクス・ポターのストーリーをたどりながら、湖水地方の魅力、そして絵本『ピーターラビット』の世界を見ていきたいと思います。

長い記事になりますので、どうぞお茶でも用意してゆっくりお付き合いくださいね。

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1 イギリス湖水地方はどんなところ?

レイク・ディストリクトは、イギリス北部のカンブリア地方にあります。
ロンドンからは列車で3時間半ほどでアクセスできます。
スコットランドのエジンバラからだと、列車で約2時間半のところです。

イギリスを周遊するツアーでは、ロンドンとエジンバラの間を縦断する際に訪問することも多いですね。

さて、湖水地方には大小さまざまな湖がありますが、一番有名な湖はウィンダミア湖です。
全長18km、最大幅は1.5kmの細長い形になり、周りにいくつかの街や村が栄えています。

湖にはクルーズ船が運行しているので、クルーズを利用して別の村を訪問することもまた楽しみの一つです。

また緑の山々に囲まれたこのエリアでは、ハイキングを楽しむ人たちもたくさんいます。

後ほど、ウィンダミア湖を中心に可愛い村々を周ってみましょう!

さて、この湖水地方に39歳から移り住み、新たな人生をスタートさせた有名な絵本作家がいました。『ピーターラビット』の作者、ビアトリクス・ポターです。

まずは、彼女がどんな人物であったのか、みてみましょう。

2 ビアトリクス・ポター (1866ー1943)

1)幼少期の生活

ビアトリクス・ポターは、ビクトリア時代のロンドンの中流階級の家で生まれました。

この時代の裕福な家庭の子供たちは、学校へ行かず、家で乳母や家庭教師に面倒を見てもらい育ちました。そしてビアトリクスもまた、学校へ通うことなく、弟のバートラムと子供部屋で過ごしました。

2人は動物や昆虫に興味を示し、爬虫類からウサギまであらゆるペットを可愛がっていました。そして、ビアトリクスはそれらをスケッチに残しました。

夏になると、ポター一家は3ヶ月もの間英国北部の景勝地、スコットランドのダンケルド近郊の邸宅を借りて過ごしていました。

しかし、ビアトリクスが15歳の時、邸宅のオーナーが変わり、ポター家族は場所を変えて初めて湖水地方で休暇を過ごすことになったのです。

ビアトリクスが初めて湖水地方で夏の休暇を過ごした邸宅レイ・カッスル Wray Castleは、アンブルサイドとホークスヘッドの中間あたりのウィンダミア湖畔にあります。

レイ・カッスル

高台に建つお城のような荘厳なつくりのお屋敷からはウィンダミア湖が眺められ、広大な敷地には緑が広がり、ポター家族はすぐに湖水地方に魅了されることとなったのです。

この湖水地方での自然との触れ合いは、ビアトリクスに大きな影響を与えました。

2) 絵本の出版

ロンドンでビアトリクスの家庭教師となったアニーとは、彼女が結婚をしてビアトリクスたちの元を去った後も親交を深めていました。そして、ビアトリクスは、アニーの長男である5歳の少年ノエルに挿絵入りの手紙を送っていました。

そしてアニーの勧めにより、その手紙の絵は『ピーターラビットのおはなし』として本になったのです。

ビアトリクスの原稿はしかし、出版社から相手にされませんでした。そこで、まず彼女は自費出版をしました。その後フレデリック・ウォーン社から、挿絵をカラーにするという条件付きで、1902年10月 ビアトリクス・ポターの絵本が商業出版されたのです。

『ピーターラビットのおはなし』に続いて、『リスのナトキンのおはなし』など作品は続いて出版されました。

そして、1905年10月にビアトリクスはロンドンから湖水地方へと引っ越しをしたのです。

一体彼女に何があったのでしょうか。

この頃のベアトリクスのことを、映画『ミス・ポター』が教えてくれました。

3)悲しい別れ ー 映画『ミス・ポター』を通して

中産階級の家庭で育った女性のビアトリクスが本を出版するということは、ポター家に歓迎される出来事ではありませんでした。それでも、ビアトリクスの作品を好きになってそばで応援してくれる人に出会い、ビアトリクスはどんどん売れっ子作家へとなっていったのです。

その素敵な人物とは、ビアトリクスの本を出版しているフレデリック・ウォーン社の編集者、ノーマン・ウォーン氏でした。

一緒に仕事を進め、支え合ううちに2人の間には愛情が芽生えました。

そして、ついにノーマンはビアトリクスにプロポーズをし、ビアトリクスはすぐにそれを受け入れます。

映画の中では、それはクリスマスでしたが、実際はその後の夏だったようです。

しかし、ビアトリクスの両親は商人であるノーマンとは家柄が合わないということで反対します。映画の中では、夏の間ビアトリクスが両親と一緒に3ヶ月間湖水地方で過ごし、それでも気持ちが変わらなければ結婚を許しますということになりました。その間ノーマンとのことはいっさい公表せずに。

ポター一家が湖水地方に入ってからも、毎日のように手紙をやり取りする2人でしたが、ある時ノーマンからの手紙が途絶えてしまいます。

そして、ノーマンの妹ミリーからの手紙が届きます。それは、ノーマンが病気であることを知らせるものでした。

慌ててロンドンに帰ったビアトリクスでしたが、ノーマンはすでにこの世を去り、お葬式も終わっていました。

実際は、ノーマンは1905年7月25日に手紙でプロポーズをしました。ビアトリクスはすぐに受け入れましたが、両親に反対されたため、婚約の事実が公にされることがなかったそうです。そしてビアトリクスがウェールズへ休暇旅行にで出かけている間にノーマンが病に倒れ、わずか1ヶ月後の8月25日、37歳のノーマンは息を引き取りました。ビアトリクスは最後に間に合わなかったのです。

大きな悲しみに打ちひしがれたビアトリクスは、湖水地方への移住を決心しました。

映画『ミス・ポター』では、ノーマンと離れて湖水地方に夏の休暇に来ている時に、ビアトリクスはニア・ソーリーのファームが売りに出されていることを知ります。そして、ビアトリクス自身が絵本で稼いだお金で、そのファームをノーマンと過ごす夏の別荘地として購入を考えていたのです。

実際はどのようにして、悲しみにくれたビアトリクスが、ニア・ソーリーの農場を購入して移住することになったのかはわかりません。しかし、愛するノーマンとの死別という辛い出来事に直面したビアトリクスには、堅苦しい都会のロンドンから離れ、素朴な自然溢れる湖水地方の場所で自由に過ごすことが必要であったことは容易に想像がつきます。

ニア・ソーリーは、ビアトリクスが15歳の時、ポター家が初めて湖水地方を訪れて以来何度も夏の休暇を過ごした中でも、特にビアトリクスのお気に入りの場所だったようです。

4)湖水地方での新たな生活

1905年にヒルトップ農場を購入したビアトリクスは、仕事の打ち合わせや両親に会うためにロンドンへ戻る以外は、そこで時間を過ごしました。ヒルトップは彼女にとって心安らげる場所だったのです。

農場の管理人としてキャノン一家もヒルトップに住み、ビアトリクスはヒルトップの改築や庭づくりを行いました。動物の世話も好んで行い、家畜の数も増やし、のちにハードウィック種の羊の専門家にもなり、交配・飼育を続けるようになります。

ロンドンとニアソーリーを列車で行き来し、農場の仕事もしながら<ピーターラビット>シリーズの絵本の制作も精力的に行いました。

ビアトリクスはさらに周りの土地を購入し、自然を保護することに興味を示しました。そして、地元の弁護士であるウィリアム・ヒーリスと知り合います。

映画『ミス・ポター』では、ウィリアム・ヒーリスとは幼馴染であったと描かれていますが、幼少の時に2人が出会っていたという事実はないようです。

そして、1913年10月15日 ビアトリクスはヒーリスとロンドンで結婚式を挙げ、ソーリーでの2人の生活が始まりました。

2人はヒルトップの近くのカッスル・コテージを住まいとしました。
ヒルトップは、ビアトリクスの仕事場、お客様をもてなす場として使われたのです。
そして、ウィリアムはホークスヘッドの弁護士事務所で仕事をしました。

ビアトリクスが結婚して間もなく、ビアトリクスの父親が亡くなり、母親をソーリー村へ呼び家を用意しました。ちょうど第一次世界大戦の最中で男手が奪われ、村では苦しい生活を送りました。戦後、ビアトリクスは母親のためにウィンダミア湖畔のボウネスに家を買い、母親はそこへ移り住みました。

その後もビアトリクスは農業に情熱を注ぎ、新しい農場を購入します。

1895年創立されたナショナル・トラストの創始者の1人は、かつて子供の頃家族で訪れたレイ・カッスルで知り合い、親交を深めてきたローンズリー司教でした。そして、ビアトリクスはその環境保全の活動に大変興味を示し、ナショナル・トラストの活動に貢献するようになりました。

その後、再び世界大戦が勃発します。

年老いたビアトリクスとウィリアムもまた過酷な時を強いられます。

そして、1943年12月22日 ビアトリクスはウィリアムに看取られ77歳でこの世を去りました

その2年後、ウィリアムもビアトリクスの元へ旅立ちます。

そして、2人が築いた農場や土地などの財産は、全てビアトリクスの遺言どおりナショナル・トラストに寄付されました。

では、ビアトリクスが新しい人生を生きた湖水地方がどのようなところなのか、じっくり見て行きましょう。

3 湖水地方を観光しよう

1)ウィンダミア Windermere

湖の名前そのままの街、ウィンダミア。
ここは鉄道の駅もあり、列車で湖水地方を訪れる際にはこの駅を利用すると便利です。

ロンドンから列車で行く場合は、オクセンホルムの駅で乗り換えが必要です。

湖水地方 オクセンホルム駅

ウィンダミア駅の周りはお店や飲食店などがあり、夏の繁忙期には非常に賑やかになります。

ウィンダミアの街

駅から湖岸の村ボウネスへ出るには、車で5−6分かかります。
公共バスでもアクセスでき、10分ほどです。ただし、本数が少ないのでよく確認してくださいね。

大通り沿いを30分ほど歩いて、湖岸へ辿り着くこともできますよ。大きな荷物がない方は、街の景色を楽しみながら歩いて散策するのも楽しいですね。

ウィンダミアを拠点に滞在し、ここからバスツアーに参加して湖水地方を巡ることもできます。

では、さっそくウィンダミア湖に面した村々へ行ってみましょう。

2)ボウネス Bowness

ウィンダミアの街から一番近い湖岸の村です。

ここはウィンダミア湖のクルーズの船着場もあり、お土産店や飲食店が並ぶリゾート地の雰囲気があります。

湖沿いや街中にホテルもたくさんあるので、宿泊地としても人気があるところです。

ここボウネスには、第一次世界大戦後、ベアトリクスが母親のために買った家があり、現在そこはホテル リンデス ハウになっています。

Lindeth Howe Hotel
https://www.lindeth-howe.co.uk/

このホテルにはビアトリクスのスケッチや写真が飾られていたり、ユニークな内装も楽しむことができます。

カーペットに描かれた動物たち

また、<ピーターラビット>の絵本の世界を体感できる楽しいミュージアムが、ボウネスの船着場から徒歩5分のところにあります。

子供向けのアトラクッションだろうなんて言わないで、是非足を運んで湖水地方の動物たちの世界に癒されてください!

The World of Beatrix Potter Attraction

では、ここから船に乗ってウィンダミア湖のクルーズを楽しみましょう。

Windermere Lake Cruise 社の船は、冬でもほぼ毎日運行しているのでうれしいですね。
Windermere Lake Cruises 

3)アンブルサイド Ambleside

ボウネスから35分ほどクルーズを楽しむと、北端の街アンブルサイドに到着です。

ここはボウネスやウィンダミアに比べると、やや洗練された雰囲気がある街です。
ここを拠点にして、ハイキングを楽しむこともできます。

ウィンダミア湖の西岸の村へ行くには、ここが通過地点となります。

ではここから再び車に乗り、ウィンダミア湖から少し離れた村へ向かってみましょう。

4) グラスミア Grasmere

アンブルサイドから車で15分ほど、公共バスで30分ほどでグラスミアに到着です。
小さなグラスミア湖畔の村は、英国の優雅な田舎の佇まいが感じられます。

ここは、詩人ウィリアム・ワーズワースが住んだ村としても有名です。

カンブリア地方のコッカマスで誕生したワーズワースは、この湖水地方で育ちます。
フランス革命後の1790年にはフランスへ渡り一時革命を支持しますが、その後の蛮行を目の当たりにし、イギリスへ戻り、再び湖水地方で過ごします。

妹のドロシーと一緒に住んだダブコテージDove Cottageは、中を見学することができます。

ダブコテージに住んでいた頃、幼馴染のメアリーと結婚をしました。子供を授かり手狭になったため、引っ越します。そして、ワーズワースとメアリーが最後に住んだ邸宅ライダルマウントRydal Mountも、グラスミアの近くにあり、見学を楽しむことができます。

ワーズワースの詩は、自然に咲いた美しい水仙を見て1802年に書かれた『水仙 The Daffodille』(英名I Wandered Lonely as a Cloud) などが有名です。

グラスミアでは他に、”ジンジャーブレッド”と呼ばれる生姜味のクッキーのお店が有名です。大変人気があるので、是非足を運んでみてください。

ではふたたびアンブルサイドを通過して、今度はウィンダミア湖の西岸沿いを南下しましょう。

5)ターンハウズ Tarn Hows 、レイ・カッスル Wray Casetle

アンブルサイドからウィンダミア湖の西岸と並行して南下していくと、ターンハウズという小さな湖を囲うように広大な緑が広がるエリアがあります。谷と盆地が織りなす自然の素晴らしい景色を楽しむことができる、人気のハイキングコースの一つです。

ビアトリクス・ポターは、この美しさを守りたいという想いから、広大な土地を高額で買い取り、生前に半分を、そして死後に全てをナショナル・トラストに寄付しました。

細い山道のため、大型バスではアクセスができません。

また、先に紹介したポター家が初めて湖水地方で休暇を過ごした邸宅レイ・カッスルは、ターンハウズから7-8キロ離れたウィンダミア湖沿いの丘の上にあります。

5)ホークスヘッド Hawkshead

ターンハウズから3キロほど離れたところ、車で5分ほど走るとホークスヘッドに出ます。

ホークスヘッドは、環境保護の目的から中心部への車の乗り入れが禁止されている落ち着いた雰囲気の村です。駐車場で車を降りて、徒歩で散策しましょう。

白壁の家が並ぶ小さな通りは、英国のカントリーサイドらしい雰囲気があります。
お土産ショップやティールームなどを歩いて回るのも楽しいですね。

ここには、ウィリアム・ヒーリスの弁護士事務所がありました。ウィリアム亡き後、ここもナショナル・トラストに寄付され、ビアトリクス・ポターのスケッチが展示されているギャラリーになっていましたが、2023年にクローズされました。

この村には、ワーズワースが通ったグラマースクールもありますよ。

6)ニア・ソーリー、ヒルトップ Near Sawrey & Hill Top

ホークスヘッドからエスウェイト湖に沿って4キロほど南下すると、ニア・ソーリー村に到着します。

ここに、ビアトリクス・ポターが湖水地方に初めて買った農場ヒルトップがあります。

ヒルトップの入り口
春・夏にはお花がきれいに咲いています

ニア・ソーリーの村はホークスヘッドよりもさらに小さな村で、大型バスではアクセスできません。けれど、常にたくさんの観光客が訪れています。

17世紀に建てられた家の1階には玄関ホールと応接間、2階には寝室、居間そして宝物の部屋と呼ばれるビアトリクスが集めた素敵な陶器や宝飾品、小物たちが飾られている部屋などがあります。

また、ビアトリクスが作ったお庭にはたくさんの植物が育っています。
『こねこのトムのおはなし』には、このお庭も登場します。

ウィリアムと結婚後に住んだカッスル・コテージは、現在一般の住宅として使われているため、見学することはできません。

このニア・ソーリーやホークスヘッドは、ポターが移住する前から『ピーターラビット』シリーズに登場する動物たちが生活する舞台として描かれていました。

では、最後にビアトリクス・ポターが描いた動物たちのお話をいくつか紹介します。

4 <ピーターラビット>シリーズの中から4作紹介

ビアトリクス・ポターの作品<ピーターラビット>シリーズは、全部で23巻あります。
日本の薄い単行本くらいのサイズで、手に取りやすく、読みやすい絵本です。

私は23冊すべてが入っている箱を購入しました。
箱を開く時は、大切な宝箱を開けるようにいつもワクワクするのです。

ウサギだけではなく、リス、ネコ、ハリネズミ、アヒル、カエル、ブタ、キツネなどさまざまな動物が主人公となって登場します。

ピーターラビットのキャラクターを知らない人はほとんどいないと思いますが、実際どんなお話が描かれているのか知らない方は多いのではないでしょうか。

すべて紹介したいところですが、とても長くなってしまうので、私がお気に入りの中から4作品を選んで紹介します。

1)『ピーターラビットのおはなし』

これは第1巻で、皆さんがよく知っている青いジャケットを着たウサギ、ピーターのおはなしです。

ピーターは4人兄弟です。フロプシー、モプシー、コットンテイルとピーターです。
お母さんウサギは、お隣のマクレガーさんの畑には行ってはいけませんよと言います。
なぜなら、お父さんウサギがマクレガーさんに捕まって、パイにされてしまったからです。

3匹はいい子にお母さんに言われたことを守りますが、ピーターはお母さんの忠告も聞かず、1人でマクレガーさんの畑へ行ってしまいます。そこで、レタスやラディッシュなどをかじっていると、マクレガーさんが畑にやってきました。

必死に逃げ回るピーターを、マクレガーさんもまた必死に追いかけます。
なんとか逃げおおせたピーターですが、途中で青いジャケットと靴が脱げてしまいました。

そして、マクレガーさんは、ピーターのジャケットを使ってカカシを作ります。

しょんぼりして家に帰ったピーターは、疲れ切って美味しい夕食も取れずに眠りにつくのです。

あれ?! 私たちが知っているピーターラビットは、あの青いジャケットがトレードマークなのに、マクレガーさんに取られたままでお話は終わってしまうの? と思ったあなた、ご安心ください。

このストーリーには続きがあるのです。

2)『ベンジャミンバニーのおはなし』

ピーターにはベンジャミンという名前のいとこがいます。

ある日ベンジャミンは、マクレガーさんが馬車で出かけた音を聞いて、ピーターを誘ってマクレガーさんの畑へ入り込みます。
あんなに怖い思いをしたはずなのに、ピーターもまたついて行きます。

ピーターは赤いスカーフをジャケット代わりに巻いていました。
そして、畑に侵入した2人は、ピーターのジャケットと靴を見つけ、ピーターは再び青いジャケットを身につけることができるのです。

それから、ちゃっかりまたマクレガーさんの畑の野菜を食べ散らかし、スカーフの中に玉ねぎを包んで持ち帰ろうとしました。

すると帰り道で、突然大きな物音がしました。
驚いた2人はそこにあったカゴの中に隠れます。

すると、そばにいたネコがノソノソとカゴに近づき、カゴの上にドスンと座り込んでお昼寝を始めたのです。そう、5時間もの長い時間です!

やがて、ベンジャミンのお父さんがベンジャミンを探しにやってきました。

カゴの中が怪しいと感じたお父さんは、ネコに飛びかかり、驚いたネコは背中を引っ掻きながらもグリーンハウスへと追いやられ、鍵をかけられてしまいます。

無事にお父さんに救出された2人は、ひどくお叱りを受けました。

そして、帰宅したマクレガーさんは、なぜネコがグリーンハウスに閉じ込められているのかと不思議に思うのでした。

ピーターとマクレガーさんの畑は、ポター家が夏の休暇を多く過ごしたダーヴェント湖畔のホテル、Lingholm Estateからインスピレーションを受けていると言われています。

The Lingholm Estate

3)『アヒルのジマイマのおはなし』

家畜のアヒルであるジマイマは、卵を自分で温めてかえしたいと願います。けれど、すぐに卵は人間に見つかってしまい、取られてしまいます。

そこで、ジマイマは静かで平和な場所を探そうと、森の奥まで歩いて行きます。

すると、そこで親切そうなキツネ紳士に出会います。

ジマイマが事情を話すと、自分の家のサマーコテージが空いているのでそこを使えばよいと言ってくれました。そこにはなぜか鳥の羽がたくさん散っていたのですが、心地よい場所だと思ったジマイマは、そこに卵を隠します。

そして、翌日から抱卵に入るつもりだとキツネ紳士に伝えると、最後のディナーパーティーをしようと持ちかけられます。

ジマイマが家でハーブや玉ねぎなど、キツネに用意して欲しいと言われた物をそろえていると、犬のケップがジマイマの行動を怪しく思います。

そして、ケップは友人のフォックス・ハウンド犬を誘いジマイマを追いかけます。

ジマイマがキツネ紳士にハーブなどを渡すと、キツネ紳士は恐ろしいキツネに豹変し、ジマイマを小屋に閉じ込めてしまいます。

そこへ、犬たちの登場です!

ジマイマは無事に救出されましたが、卵はダメになってしまいました。

その後、家で卵を温めたジマイマでしたが、抱卵が下手なジマイマは4羽しかかえすことができなかったのです。

このジマイマのお話は、ヒルトップ農場が舞台になっており、キャノン夫人と子どもたちも登場するのです。

4)『パイが2つあったおはなし』

このストーリーは、私の特にお気に入りです。

ネコのリビーは、犬のダッチェスにお茶会の招待状を送ります。

ピンクと白のパイ皿に、パイを用意しているので、遅れないで来てね と。

招待状を受け取ったダッチェスは、喜んで返事をします。

その時ダッチェスは、「ネズミのパイじゃないとよいのだけど」と一言書き添えた後、やっぱりこの文は失礼だと思い直し、その一文を消して返事をします。

しかし、ダッチェスはやっぱりネズミのパイは食べたくありません。
そこで、自分が用意していた仔牛とハムのパイとすり替えることを企みます。

ダッチェスのためにネズミとベーコンのパイをオーブンの下の段にセットしたリビーは、お買い物に出かけます。途中2人は道で鉢合わせますが、軽く会釈をして通り過ぎます。

さて、そこからダッチェスは慌ててパイを持ってリビーの家に忍び込みます。
そして、オーブンの上の段に仔牛とハムのパイをセットします。
その時、リビーのパイが見つからなかったのですが、気にしている余裕はありませんでした。

時間になり、ダッチェスはリビーの家に到着します。


そして、リビーはオーブンの下の段からパイを取り出し、振る舞います。

ペロリと食べ尽くしたダッチェスでしたが、自分がパイを作るときに使っているブリキのパイ生地の型が残っていないことに気づきました。

型がない、と大慌てするダッチェスに、リビーは自分はパイを作るときに型を入れないことを告げます。それでも、自分のパイに型を使ったことははっきりしているので、型を飲み込んでしまったと思い込み、だんだん体調が悪くなっていきます。

ダッチェスを気づかったリビーは、カササギドクターを呼びに外に出ます。

その間、ダッチェスは何かがオーブンで焼けている匂いを感じ、オーブンの上の段を開けると、そこにダッチェスの仔牛とハムのパイがあったのです。

自分がネズミとベーコンのパイを食べたことを知ったダッチェスは、あわててダッチェスのパイを裏庭に出します。

カササギドクターと一緒にリビーが戻ってくると、だいぶ気分がよくなったから帰ると言います。

リビーが玄関先で見送り、部屋の中に入ったことを確かめると、いそいそと裏庭へ回ります。
すると、裏庭にあったパイは、カラスとカササギによって食い散らかされていたのです。

そして、カササギはわざと、パイ型を見えるように残しました。

それから裏庭に出てきたリビーがそのパイの残骸を発見します。

リビーはそれを見て、「今度パーティーを開く時は、ネコのいとこタビタを招待しよう」とつぶやくのでした。

このリビーとダッチェスの物語は、ニアソーリー村が舞台になっています。

ビアトリクスの絵本のおはなしは、最後が辛辣であったりすることもあるのですが、そこがまたただ可愛いだけの世界ではなく、リアルに感じられてよいのではないでしょうか。

ダッチェスが手紙の返事をリビーに気をつかって書き換え、結局やらかしてしまうところも、人間らしい憎めなさがありますよね。

***

ビアトリクス・ポターの想いを胸に抱き、ピーターラビットに登場する動物たちのストーリーを思い描きながら湖水地方を訪れると、きっと旅がもっと面白くなる! そう思います。

次回は、オーストリアの湖水地方をご紹介したいと思います。

ABOUT ME
もわりー
もわりー
日本→ウィーン15年→現在ロンドン在住です。
書くこと・なにかをつくり出すことが好きです。

記事を読んでいただいた方をステキな旅へと案内できたら、そんな思いで書いていきます。

どうぞよろしくお願いします。
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