『となりのトトロ』My Neighbour Totoro ロンドン舞台公演を見ました

”トットロ・トットーロ” ”トットロ・トットーロ”
この歌を聴いたことがない日本人は、あまりいないのではないでしょうか。
それほど有名なジブリ映画、あの『となりのトトロ』が、ロンドンで舞台公演されているのです。
昨年ジブリの『千と千尋の神隠し』ミュージカルのロンドン公演を見て、とても感動した後だったので、トトロも見たいなという気持ちは高まっていました。
そして、ついに先日ロンドンの舞台公演を見てきました。
はい、とても素晴らしかったです。
今回は『となりのトトロ』ロンドンでの舞台公演について書いていきます。
1 『となりのトトロ』ロンドン舞台公演ってどんな感じ?
まずはじめにお伝えしたいことは、この舞台公演は英語で上演されているということです。
『千と千尋の神隠し』のミュージカルは、日本の公演で行われた時と同じキャストの方々がロンドンにいらして、日本語で演じていました。そして、英語の字幕が横で流されました。ストーリーが日本語で進んでいくので、違和感もなく、感動しました。
しかし、今度のトトロは英語での公演です。
どんな感じになるのだろう、とちょっと不安はありました。
前日に『となりのトトロ』の映画を見直して、ストーリーはバッチリ頭の中に入っていました。
さて、コベントガーデン近くにあるジリアン・リン・シアターに到着です。

さっそくプログラムを購入して、席に着きました。

プログラムを開くと、サツキとメイやまっくろくろすけなどの画像が紹介されていました。
けれど、肝心のトトロやネコバスの写真がありません。
もしかしたら、トトロやネコバスは、映像での表現だけになるのかな、ちょっとそんな悲しい気持ちもよぎりました。舞台でトトロやネコバスを表現するなんて、やっぱり無理な話なのかな、と思ったのです。
いよいよ上演が始まりました。
正直なところ、はじめはサツキとメイに違和感がありました。
しっかり映画で復習(いや予習?)をしてのぞんで、映像の中のサツキとメイが頭の中に染み付いてしまったことがいけなかったのかもしれません。
お父さんは日本人の方で、映画のお父さんそのままの世界観でした。
そして、舞台のつくりは素晴らしく、パペット(人形)の動きにも感動しました。
オープニングから、映画と同じ歌がライブ演奏と一緒に英語で歌われました。
楽団の人たちは、舞台の上と両端に設置された木をイメージした舞台で演奏していました。
衣装はグリーンで、木の一部と化していたのです。
すっかりストーリーに釘付けになり、いよいよトトロの登場が迫ってきました。
どんな感じなのかな、と思いながらドキドキしていました。すると・・・
すごい!
イメージそのままのトトロが登場しました!
笑顔が止まりません。
そして、猫バスも期待を裏切らない、いえ、期待以上の猫バスでした。
トトロからもらった木の実が大きくなるところや、トトロにつかまって夜の空を飛んでいくところも、猫バスが村を走り抜けていくところも、圧巻の仕掛けでした。
ストーリーは映画から少しアレンジされたところもありましたが、それはそれで自然に受け入れられて、感動の舞台でした。
2 『となりのトトロ』ストーリーを振り返って
『となりのトトロ』は、ジブリ作品の中でも特に好きな映画のひとつです。
『風の谷のナウシカ』や『もののけ姫』と同様に、自然が美しく表現され、自然と一緒に生きることの大切さが描かれています。
昭和の、それも戦後間もない頃と思われる時代背景の中、緑あふれるのどかな田舎の生活がどこか懐かしい気持ちにさせてくれます。そんなのどかな森で、マジックが起こるのです。
森にはトトロという巨大な生き物とその小さな仲間たちが住んでいるのです。英語では、forest spirits と表現されています。森に住む神聖な生き物という感じです。
でも残念ながら、そのトトロたちには子供の頃にしか会うことができないのです。
そして、サツキもメイも、トトロたちと友達になり、助け合っていきます。
私は2人姉妹の妹です。
なので、このストーリーにはとても感情移入してしまいました。
サツキとメイは、歳がだいぶ離れているように思えますが、妹であるメイの気持ちは不思議なくらいわかります。お姉ちゃんの後をいつでもついて行きたいという気持ち。
「メイも行く!」というセリフを聞いただけで、涙が込み上げてしまいます。
そして、病院から連絡があった後、メイは一度駄々をこねて、サツキに叱られます。
本当はサツキだって、悲しくて不安で仕方ないのですが、妹のメイを前に、取り乱さずに我慢していたのです。
そんなサツキが、おばあちゃんの前で感情を剥き出しにして、泣いてしまいます。
お母さんが死んじゃったらどうしようと。
それを見たメイちゃん。
とうもろこしを抱えて走り出します。
このメイちゃんの行動は、痛いほど心に刺さりました。
お母さんに元気になってもらいたいから、メイちゃんが採ったとうもろこしをお母さんに食べてもらいたい、そういう気持ち。そして、お母さんだけじゃなくて、お姉ちゃんにも元気になってもらいたい、そういう気持ちで、ふと冷静になって自分が行動を起こさなくては、という強い気持ちになったのですよね。
結果としては、メイちゃん1人では何もできなくて、サツキをはじめ、村中のみんなに迷惑をかけてしまったのだけれど、それはそれで良いのです。
トトロが助けてくれたのですから。
この映画のストーリーは、主題歌と密接につながっています。
エンディングテーマの歌詞をよく聞くと、ストーリーはそのままです。
そして、映画でもこのエンディングテーマ曲が流れている間、最後までじっくり見る必要があります。その後の展開が描かれているのですから。
3 『となりのトトロ』ロンドン舞台公演について
2022年ロンドンのバービカン・ホールで『となりのトトロ』が舞台公演されると知った時は、ただ驚きました。
あの日本のアニメーションを、どうやって舞台で、しかも英語で表現するのか、想像もできませんでした。
チケットはあっという間に売れてしまいました。
そして、この舞台公演は、優れた演劇作品におくられるオリビエ賞を、合計6部門で受賞したのです。
その6部門とは、下記です。
* 最優秀作品賞
* 演出家賞
* 舞台美術賞
* 照明デザイン賞
* 衣装賞
* 音響デザイン
スタジオジブリは、宮崎駿さんが監督、久石譲さんが音楽監督という素晴らしいコンビで数々の映画作品が世に出されています。
宮崎駿さんの映画に対する情熱をよく理解した久石譲さんが、『となりのトトロ』の舞台化の話を持ち出した際、宮崎さんは「久石譲さん自らが指揮をとるなら舞台化を許可する」と言ったそうです。
そして、舞台化の話はロイヤル・シェイクスピア劇団へとつながりました。
劇作家のTom Morton-Smithさんは、2001年に『千と千尋の神隠し』の映画を見てからジブリ作品に興味を持っており、さらに家族向けの舞台を手がけたいと思っていたところで、この話をすぐに引き受けました。
けれど、あのトトロや猫バスをステージで使うって、可能なことなの?
そんな課題を担ったのは、ディレクターであるPhelim McDermottさんでした。
彼らの劇団は、”Improbable“と呼ばれており、不可能を可能にできるのです。
そこで、フェリム(Phelim)さんは舞台制作に関わるあらゆるプロフェッショナルな仲間に声をかけました。
そうして、パペット(人形)デザイナーのTom PyeさんとBasil Twistさん、コスチュームデザイナー(衣装)のKimie Nakano (中野希美江)さんたちの素晴らしいチームが結集したのです。
オリビエ賞で中野さんが衣装部門で賞を取った際の動画がありました。涙ながらに登壇し、一緒に関わったチームメンバーの名前をあげて感謝の意を表していました。
この日本の昭和のアニメーションを舞台化するにあたり、中野さんの力が不可欠だったであろうことは容易に想像できますね。
Kazegoと呼ばれる、黒子を身にまとって人形を操る人たちの活躍は、日本の古典文楽の技術を引き継いでおり、文楽の世界観を伝えることでも中野さんは大活躍していたそうです。
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トトロは子供の頃にしか会うことができないなんて、とても残念なことです。
大人になった今だからこそ、トトロという存在がよくわかると思うのに。
けれど、プログラムには書いてありました。
この物語は、”私たちみんなの中にいるこども” に語りかけていると。
2025年3月から再度ジリアン・リン・シアターで始まったこの公演は、来年2026年3月までの上演が決まっているようです。
ロンドンに住んでいる方、そうでない方も、是非ステキなトトロに会いに行ってみてくださいね。