ステキすぎるジャズライブ! 上原ひろみ in ロンドン 13th NOV2023
先月、ロンドンで行われた上原ひろみさんのジャズライブに行ってきました。
とにかく・・・ 素晴らしいライブでした。
ロンドンでは毎年11月にEFG LONDON JAZZ FESTIVALが開かれます。期間中、ロンドンの有名なコンサートホールであるサウスバンクやバービカンなどをはじめ、小さなライブハウスも含めて70以上もの会場で、300以上ものジャズライブが行われるそうです。
今年はそのフェスティバルの中で、日本人の有名なジャズピアニスト・作曲家である上原ひろみさんがバービカンでライブを行いました。
演奏は2部構成になっていました。
第1部 Hiromi : The Quintet
第2部 Hiromi’s Sonicwonder
私は特にジャズファンというわけではなく、上原ひろみさんのライブも今回が初めてでした。けれど、あまりにもステキだったので、文章に残そうと思いました。
上原ひろみさんのファンの方が読まれたら、素人目線の感想だと思われることもあるかもしれませんが、どうぞご容赦ください。
Hiromi : The Quintet 上原ひろみと弦楽四重奏
まず、今回のライブがどのような編成で行われるのかという情報も知らずに席につきました。そして、上原ひろみさんと一緒に、弦楽器を携えた4人が登場したのです。
ピアノと弦楽器? なんだかクラシックの演奏が始まるような気持ちになりました。そして、曲が始まるやいなや、あっという間に上原ひろみさんのジャズの世界に引き込まれていました。
弦楽器とジャズピアノが、こんなにもステキなハーモニーを奏でることに驚きました。軽快でいて重厚で、楽しくなるのです。
この弦楽四重奏と上原ひろみさんの演奏は、2021年に発売されたアルバム『Silver Lining Suite シルバー・ライニング・スイート』の制作で誕生しました。
シルバーライニング、困難な状況での希望の光。
ライブでひろみさんは言っていました。この曲は2020年に作られたと。
あれよあれよという間に世界中がパンデミックに陥り、ミュージシャンのライブツアーは中止、街にも人がいない状態となりました。そんな混沌の中での感情の動きを描き、強さと希望を持って4部からなる組曲が生まれたのです。
”Isolation 隔離”
“The Unknown 未知”
“Drifters 放浪者”
“Fortitude 不屈の精神“
弦楽器が奏でる鋭い悲壮な音色から始まり、Isolationの世界が音楽で見事に表されていました。それから私たちが経験した未知なる世界への不安やその中で彷徨う心へと移り、最後はそれを克服した強靭な光が見えてきました。
ひろみさんの心の叫びがそのままピアノの鍵盤の上を舞い、そしてその音が弦楽器とステキに調和するのです。「天才すぎる!」何度心の中でそう叫んだかわかりません。
時に立ち上がり全身の力を込めて鍵盤に向かい、時にジャンプをしながらリズムを取るようにピアノを弾く上原ひろみさんのダイナミックな笑顔に、会場にいる全ての人が魅了されました。
このアルバムをレコーディングする際は、ひろみさん自ら新日本フィルのコンサートマスターであるバイオリニストの西江辰郎さんに声をかけ、それから第2バイオリン、ビオラ、チェロの奏者を集めて演奏が行われたそうです。クラシックとジャズのやり方の違いをお互いに感じながら、いつの間にか一体となって素晴らしい曲ができるのですから、音楽って、プロって、素晴らしいですよね。
ロンドンの公演では、ロンドンで活躍している弦楽奏者の方々と一緒にライブを行っていました。バイオリンのThomas Gould さんとShlomy Dobrinskyさん、ビオラのMeghan Cassidyさん、そしてチェロのGabriella Swallow さんです。
弦楽器の音色の余韻に浸りながら、第1部が終了しました。
Hiromi’s Sonicwonder 上原ひろみ ソニックワンダー
休憩が終わり第2部が始まると、蝶ネクタイにスーツという先ほどのメンバーとは打って変わり、ジーンズにシャツというカジュアルな服装でベース、ドラム、トランペットのメンバーが登場しました。
私はこの時一瞬思ったのです。
なんだかせっかくクラシックな雰囲気の音楽を楽しんでいたのに、これからは派手なジャズスタイルになってしまうのか、と。
けれど、演奏が始まってすぐにネガティブな思いは吹き飛び、楽しい驚きで釘付けになりました。
みんながみんな、天才すぎる・・・
ベースのアドリアン・フェロー (Hadrian Feraud)さんとひろみさんは以前一緒に組んで演奏をしたことがあり、今回アドリアンさんとの音楽を作るという構想から、ドラムのジン・コイ (Gene Coye)さんそしてトランペットのアダム・オファリル(Adam O’Farrill)さんと上原ひろみさんの4人でプロジェクトを作ったそうです。
そうしてアルバム『Sonicwonderland ソニックワンダーランド』が誕生しました。
トランペットのアダムさんは、ステージの真ん中にチノパにジャケットという装いでボソッと立ち、とても朴訥な雰囲気を出していたのです。が、トランペットを吹き始めると生き生きと輝くのです。トランペットの音色も、さまざまな効果音を演出し、主役から脇役まで見事な音色が流れました。
アドリアンさんもジン・コイさんも、巧妙なソロパートでうっとりさせてくれて、プロ奏者の素晴らしさを見せつけてくれました。
そして、ひろみさんはピアノと他に2台のシンセサイザーを使いこなし、ゲームのようなユニークな音を出して楽しませてくれたり、しっとりと美しい音色を奏でたり、次から次へと新しい顔を見せて楽しませてくれました。
さらに、ロンドンでシンガー・ピアノ奏者として活躍している、ひろみさんのバークリー音楽大学時代からの友人であるオリー・ロックバーガー(Oli Rockberger)さんが、スペシャルゲストとして登場してくれたのです。『Sonicwonderland』の中に収められているひろみさんとの共作である“Reminiscence(追憶)”を歌ってくれました。
ひろみさんから、遠く離れたところにいるなかなか会えない人、あるいはもう会えない人を思って作った曲をプレゼントしますというMCとともに奏でられた曲でした。ちょうど今年、もう会えなくなってしまった大切な人がいる私には、とてもステキなプレゼントでした。
All in one will be right in my heart… in my heart.
I miss you but I’m learning to let it go.
すべては心の中にある…私の心の中にある
あなたが恋しい、でも離れていることを学んでいこう
第2部のアンコールの最後では、第1部で登場した弦楽クインテットの4名も加わり、みんなの演奏を聞くことができました。
『Sonicwonderland』のオフィシャルミュージックビデオを見ると、かわいいサウンドとともに、懐かしいファミコンの世界が演出されているのですよね。その画面を見ているだけでも楽しく、上原ひろみさんの楽しいSonicwonderの世界が広がります。
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ロンドンでは2枚のアルバムプロジェクトの編成でライブを聞くことができ、贅沢なステキすぎるジャズライブでした。
ロンドン公演の前にはイタリア、スペインなどヨーロッパをまわり、その4日後には東京でライブを行っていたひろみさん。12月の今も日本中を駆け巡っているようです。上原ひろみさんのパワーは一体どこから来るのか不思議になりますが、きっとたくさんの人たちに音楽を届けることでパワーが作られ、そのパワーを聞いている私たちももらっているのですね。
上原ひろみさん、そしてバンドのメンバーの方々、みなさんありがとうございます!