4) ウィンストン・チャーチルー 英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ Season 1

Buckingham palace
もわりー

英国王室ドラマ『ザ・クラウン』シーズン1から学ぶ英国のお話。
今回は、エリザベス女王と歴代首相をテーマに紹介する第1弾です。

シーズン1で登場した首相は、チャーチル首相でした。

チャーチル首相は、エリザベス女王が即位して初めて対面することになった首相でした。

ウィンストン・チャーチルの名前は小学校の頃から教科書に登場する名前であり、みなさんご存知ですよね。第2次世界大戦中のイギリスでナチスドイツを敗北に追いやり、戦争を終結させた首相として英国でも人気があります。

チャーチルのお話は、映画『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の中で、第2次世界大戦中のナチスドイツと対峙する様子が大変興味深く描かれています。

余談ですが、この映画ではカズ・ヒロ(辻一弘)氏がメイクアップ・スタイリング賞として日本人初のアカデミー賞を受賞しており、日本でもうれしい話題になりましたね。

そんな戦時中の英雄というイメージしかなかったチャーチル首相ですが、『ザ・クラウン』を見ると、また別のチャーチル首相の姿を知ることができました。

1 エリザベスが女王になって初めての首相 – チャーチル

ドイツが降伏した年の1945年、7月の総選挙により、チャーチルが党首であった保守党がアトリー率いる労働党に敗れ政権交代し、チャーチルは首相の座から退いていました。それから6年後の1951年再び総選挙が行われます。

シーズン1の第1話では、そのイギリス総選挙で保守党が勝利をおさめ、再びチャーチルが首相に返り咲く姿が描かれています。

チャーチルはその時77歳でした。政党内でも偉大なる第2次チャーチル内閣の誕生を讃えているかのように思われましたが、ドラマに描かれていたチャーチルの姿はちょっと違っていました。

体調もあまり芳しくなく、まわりの者から国王であるジョージ6世に、チャーチルへ退陣を促すよう進言して欲しいと頼む場面まで描かれていました。

その後、若くしてエリザベス女王が即位しました。

チャーチルは、女王として初めて対面するエリザベスに、謁見時の決まり事を教示します。まだその時は若く頼りないエリザベス女王でしたが、そんな女王を敬う謙虚な姿勢のチャーチルが印象的でした。

そして、即位後もフィリップ殿下の姓であるマウントバッテンを継ぎたい、バッキンガム宮殿ではなくクラレンスハウスにとどまりたいという若き女王の私的な願いも、キッパリと威厳かつ尊重の念を持って、それらが許されないことを諭したのです。

そんな初々しい女王とチャーチル首相の関係に変化があらわれるのが第4話

1952年ロンドンで多くの犠牲者を出した大気汚染であるロンドンスモッグが発生しました。しかし、チャーチルははじめ天候の問題だと言いはり、真剣に環境対策に取り組もうとしませんでした。

大気汚染という一大事と向き合わないチャーチル首相に、もはや国の政治を任せることはできないと考えたエリザベス女王は、ついにチャーチルに退陣を迫るように提言する決意をするのです。ところがその時、チャーチルの新しい秘書として登場した若い女性が、このスモッグで前が見えなくなったことにより事故に遭い、亡くなってしまうというアクシデントが起きました。そのことがきっかけで、チャーチルもようやくこのスモッグ問題と向き合うようになるのです。そして、エリザベスもそんなチャーチルを見て退陣をほのめかす発言は控えたのです。

このチャーチルの新しい秘書として登場する若い女性は、実在していたわけではなさそうなので、ロンドンスモッグの事実以外はフィクションとして描かれているようです。けれど、チャーチルの心境の変化をあらわすには不可欠な人物として、ドラマ中では大切な役割を果たしていました。

その後第7話では、東西冷戦下で力を増していくソ連との関係を模索する中、首相のチャーチルと外相イーデンが体調を崩してしまいます。政府側はそのことを女王に隠そうとしましたが、その事実を知ったエリザベス女王はチャーチルの目の前でキッパリと言うのです。

国の政を司る立場の人から体調不良の事実を伏せられたのでは、女王として国を任せることはできないと。

その発言を聞いたチャーチルは、エリザベス女王にはもう自分から教えることは何もない、もうすでに立派な女王になられていると答えるのです。

チャーチル首相という偉大な人物と、エリザベス女王の実直な威厳が見事に調和した素敵なシーンでした。

2 80歳のチャーチル肖像画

チャーチルは絵画が趣味だったことでも知られており、チャーチル作のたくさんの絵が残されています。『ザ・クラウン』シーズン1の第9話では、そんなチャーチル自身がモデルとなり絵を描かれる立場になりました。

チャーチル首相80歳の誕生日を記念して、議会はチャーチルの肖像画を用意することにしたのです。そこで、モダンアートの画家サザーランド氏がチャーチルの住まいであるチャートウェルを訪れます。

ドラマの中では、サザーランド氏が訪れた際も、チャーチルは池のほとりに座って風景画を描いていました。頑固な態度のチャーチルでしたが、何度も対面して会話を続けるうちに、サザーランド氏に心を許していったかのように見えました。

そして、いよいよ11月チャーチルの誕生日にウェストミンスター寺院でチャーチルの肖像画がお目見えしました。しかし、その時のチャーチルのスピーチは、モダンアートを侮辱する内容だったのです。そう、チャーチルはこの肖像画が気に入らなかったのです。

サザーランド氏はありのままのチャーチルを描きました。しかしチャーチルにとっては肖像画は昔のように美化されて描かれるものであった方がよかったのです。ドラマの中では、チャーチルはその絵をチャートウェルの庭で焼却してしまいます。そして、肖像画に描かれた老いた自分の姿を見て、辞任を決意したのです。

これはほぼ史実通りであり、実際肖像画はクレメンタイン夫人の指示により、秘書が始末したと言われています。

話はそれますが、第9話の中で個人的に印象的だったセリフがあったので紹介します。

自身も絵を描くチャーチルが、サザーランド氏に対して批判的な発言をすると、クレメンタイン夫人は、「彼はハンサムよ、『ヒースクリフ』みたい」と言いました。

このヒースクリフとは、おそらく英文学の名作、エミリ・ブロンテ作の『嵐が丘』に出てくる青年のことでしょう。なかなか過激なストーリーで読み進めると苦しくなるところがある小説ですが、英国ではここに登場するヒースクリフが、魅力的な男性の比喩として使われているのだなと興味深く思いました。

3 チャーチルの邸宅 チャートウェル

第9話で登場したチャーチルの邸宅 チャートウェルChartwellは、チャーチル死後ナショナル・トラストに献上され、今も一般公開されています。

チャートウェル 外観

首相官邸のあるダウニング街から南方面へ車で約1時間ほどのところ、ケント州にあります。

広大な敷地にお庭が広がり、実際ドラマで登場したように、チャーチルがお気に入りだった池のほとりに椅子が置かれ、チャーチルがそこに座って絵を描いていた様子が想像できます。

チャートウェルお庭の池

庭の奥にあるアトリエ(stadio)にはたくさんの数の絵が展示されていることに驚きます。絵の具や筆、パレットなども当時のままのように展示されています。

チャートウェルのアトリエ

家の中の書斎やリビング、ダイニングルームもそのまま残されています。

書斎のデスクの上には、エリザベス女王の戴冠式、そしてエリザベス女王の父であるジョージ6世の写真が飾られており、国王・女王とチャーチル首相との深い絆が感じられます。

チャーチルの書斎

ライブラリーをはじめ家にはたくさんの本が収められており、チャーチルが読書家であったことがわかります。自らも、1945年に一度首相の座を退陣した際、『第二次世界大戦』を全6巻で執筆しています。そしてこの本はベストセラーとなり、第二次チャーチル内閣で首相在任中の1953年にノーベル文学賞も受賞しました。

頑固で強面のイメージのあるチャーチルですが、動物好き、特にネコが好きだったことで知られているのです。

チャーチルが90歳で最期を迎えるときに飼っていたネコのジョックJockは特に可愛がっていたと言われています。そしてその後も、チャートウェルではチャーチルの願い通り、代々Jockと言う名でネコが飼われているそうです。

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もわりー
もわりー
日本→ウィーン15年→現在ロンドン在住です。
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