英国王室ドラマ『ザ・クラウン』シーズン3から学ぶ エリザベス女王と歴代首相 ハロルド・ウィルソン

英国王室ドラマ「クラウン」

エリザベス女王が1952年に即位して以来、英国では現在のボリス・ジョンソンまで14名もの首相が登場している。初代ウィンストン・チャーチルとエリザベス女王との深い絆はシーズン1で大変興味深く描かれていた。

英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ英国 4)ウィンストン・チャーチル Season1
英国王室ドラマ『ザ・クラウン』シーズン1から学ぶ英国のお話。今回は、エリザベス女王と歴代首相をテーマに紹介する第1弾です。シーズン1で登場した首相は、チャーチル首相でした。(function(b,c,f,g,a,d,e...

今回は、このドラマを見るまで存在を知ることのなかったウィルソン首相について紹介したい。

1 スパイ疑惑

『ザ・クラウン』シーズン3の第1話は、1964年選挙が行われるところから始まる。優勢と言われている労働党のハロルド・ウィルソンは、ソ連のKGBのスパイなのではないか、という噂話がエリザベス女王の耳に入ってくる。病状が芳しくないというウィンストン・チャーチルを見舞った際も、ウィルソンが若い頃、チャーチルの元へロシアへの渡航許可を求めてやってきたという話を聞かされ、エリザベスの中で疑惑がどんどん高まっていく。さらに、王室の美術顧問である男性と話をしている際にも、ウィルソンは若い頃ロシアに行っているから、過激な思想を持っていてもおかしくない、という話を聞いてしまう。

そんな中、予想通りウィルソン率いる労働党が勝利する。そして、いよいよエリザベス女王と初めて対面する時がやってきた。王室の存続反対派が数多く占める労働党党首、そしてソ連のスパイ疑惑があるハロルド・ウィルソンとの謁見に、緊張感が漂う。

実際エリザベス女王が抱いた彼に対する感想は、どことなく威厳に欠けた雰囲気だった。それはまさにスパイ向きだと友人らに言われ、そのことが、さらに女王のウィルソンへのスパイ疑惑を増長させる。

そしてタイミング良く、ドラマの中でイギリス上層部にロシアのスパイが紛れ込んでいるという話が持ち上がってくる。英国保安局の長官がエリザベス女王に会いにきて、スパイ疑惑の話を伝えるのだ。

2 スパイ疑惑の真相

ついにハロルド・ウィルソンがスパイであることが暴かれるかのように思われたが、スパイはウィルソンではなく、バッキンガム宮殿内にいたのだ。王室絵画鑑定官のアンソニー・ブラントこそがスパイであった。

第2次世界大戦中から1950年代にかけて活動していた、ケンブリッジ大学卒業生によるソ連のスパイ網「ケンブリッジ・ファイブ」の1人だったのだ。

王室関係者の中に長年スパイが潜伏していたということが知られれば、友好国であるアメリカから英国諜報機関への信頼が失われることになる。エリザベス女王はその場で、このことを公表しないことにしたと告げられるのであった。

ブラントはその後もスパイであったことは公開されずに、定年でリタイアするまでバッキンガム宮殿で仕事を続けた。しかし、その後1979年マーガレット・サッチャーが政権を握った際、この件は公表された。

実際にウィルソンが首相になった時期は1964年の10月、アンソニー・ブラントのことがエリザベス女王に報告された時期は1964年4月の終わり頃の出来事なので、このエピソードとはちょっとズレている。けれど、女王にとって初の労働党の首相との初めての謁見は、恐らくこれまでの保守党党首とは違う緊張感が伴っていたのではないだろうか。実際、ウィルソン首相にソ連のKGB疑惑が持ち上がったこともまた事実のようだ。これは疑惑のままで終わった話だが。

3 エリザベス女王とウィルソン首相

こんな不穏な始まり方をしたエリザベス女王とウィルソン首相との関係は、その後友好的なものとなり、ウィルソン首相は、実際エリザベス女王お気に入りの首相の1人と言われている。

『ザ・クラウン』シーズン3 第3話では、ウェールズのアバーファン炭鉱崩落事故の話が描かれる。すぐに現地を見舞うようエリザベス女王を促すウィルソン、しかしそれを拒否するエリザベス。そして最後にはエリザベス女王が正直な気持ちを彼に伝え、女王が現地を見舞う様子が描かれる。

また、第4話で保守派がクーデターを企てている様子が描かれた際も、ウィルソン首相は女王に直接このことを訴え、女王もこれに応じる。

この2つのエピソードからも、首相と女王の間に紡がれた2人の絆が感じられ、ウィルソン首相に好感を抱いてしまう。

ウィルソンは、1964年から1970年までと、その後1974年から1976年までの2回首相を務めた。2期目早々に首相を引退した理由は当初不明とされていたが、のちにアルツハイマーを患っていたことが原因だったことが明かされた。『ザ・クラウン』シーズン3の第10話では、ウィルソンと女王の最後の謁見の様子が描かれる。ウィルソンは病気のことをそのまま女王に述べ、女王はウィルソンが去ることを非常に残念そうに語る。

実際引退の際に女王に真実を打ち明けたのかどうかはわからないが、ドラマの中で展開されたような会話があったとしてもおかしくない、それほどの信頼関係があったのではないかと思いたい。

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