9) ハロルド・ウィルソン ー 英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ Season 3

もわりー

エリザベス女王は、1952年に即位してから約70年に及ぶ在位の間、14名の首相と関わりました。『ザ・クラウン』シーズン1で描かれていた初代ウィンストン・チャーチルとエリザベス女王との深い絆は、とても印象的でした。

4) ウィンストン・チャーチルー 英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ Season 1

今回は、その14人の首相の中で、シーズン3に登場するウィルソン首相について紹介します。

チャーチル首相ほど有名な存在ではありませんが、私はこのドラマでウィルソン首相の言動を見て、ウィルソン首相について取り上げてみたくなったのです。

1 スパイ疑惑

『ザ・クラウン』シーズン3の第1話は、1964年選挙が行われるところから始まります。

優勢と言われている労働党のハロルド・ウィルソンは、ソ連のKGBのスパイなのではないか、という噂話がエリザベス女王の耳に入ってきます。病状が芳しくないというウィンストン・チャーチルを見舞った際も、ウィルソンが若い頃、チャーチルの元へロシアへの渡航許可を求めてやってきたという話を聞かされ、エリザベスの中で疑惑がどんどん高まっていくのです。さらに、王室の美術顧問である男性と話をしている際にも、ウィルソンは若い頃ロシアに行っているから、過激な思想を持っていてもおかしくない、という話を聞いてしまいます。

そんな中、予想通りウィルソン率いる労働党が勝利しました。そして、いよいよエリザベス女王と初めて対面する時がやってきます。王室の存続反対派が数多く占める労働党党首、そしてソ連のスパイ疑惑があるハロルド・ウィルソンとの初めての謁見に、緊張感が漂います

謁見後、エリザベス女王は彼のことを、どことなく威厳に欠けた雰囲気の人物だったと言います。それはまさにスパイ向きなのだと友人らに言われ、そのことがさらに女王のウィルソンへのスパイ疑惑を増長させるのです。

そしてドラマの中ではタイミング良く、英国保安局の長官がエリザベス女王に会いにきて、イギリス上層部にロシアのスパイが紛れ込んでいるようだという話を告げるのです。

2 スパイ疑惑の真相

ついにハロルド・ウィルソンがスパイであることが暴かれるかのように思われたのですが、スパイはウィルソンではなく、もっと身近なバッキンガム宮殿内にいました。王室絵画鑑定官のアンソニー・ブラントこそがスパイだったのです。

第2次世界大戦中から1950年代にかけて活動していた、ケンブリッジ大学卒業生によるソ連のスパイ網「ケンブリッジ・ファイブ」の1人だったのです。

王室関係者の中に長年スパイが潜伏していたということが知られれば、友好国であるアメリカから英国諜報機関への信頼が失われることになります。そのため、このことは公表されずに闇に葬られました。

ブラントはその後もスパイであったことは公開されずに、定年でリタイアするまでバッキンガム宮殿で仕事を続けました。しかし、その後1979年マーガレット・サッチャーが政権を握った際、この件は公表されることになります。

実際にウィルソンが首相になった時期は1964年の10月、アンソニー・ブラントのことがエリザベス女王に報告された時期は1964年4月の終わり頃の出来事なので、このエピソードとはちょっとズレています。

けれど、女王にとって初の労働党の首相との初めての謁見は、恐らくこれまでの保守党党首とは違う緊張感があったのでしょう。ウィルソン首相はこれまでの首相と違い、中流階級出身ということもあり女王にとってはスパイのようなどこか馴染みのない雰囲気があったのかもしれませんね。実際、ウィルソン首相にソ連のKGB疑惑が持ち上がったこともまた事実のようです。けれど、これは疑惑のままで終わっています。

3 エリザベス女王とウィルソン首相

こんな不穏な始まり方をしたエリザベス女王とウィルソン首相との関係は、その後友好的なものとなり、ウィルソン首相は、エリザベス女王お気に入りの首相の1人と言われているのです。

『ザ・クラウン』シーズン3 第3話では、ウェールズのアバーファン炭鉱崩落事故の話が描かれています。すぐに現地を見舞うようエリザベス女王を促すウィルソン、しかしそれを拒否するエリザベス。そして最後には、エリザベス女王は自分の中にある人には言いづらい正直な気持ちをウィルソン首相に伝え、ウィルソン首相の言葉によって女王は現地を見舞うこととなるのです。

また、第4話で保守派がクーデターを企てている様子が描かれた際も、ウィルソン首相は率直に女王にこのことを訴えます。そして、女王もこれに応じてクーデターを阻止したのです。

この2つのエピソードからも、首相と女王の間に紡がれた2人の絆が感じられ、ウィルソン首相に好感を抱いてしまいます。

ウィルソンは、1964年から1970年までと、その後1974年から1976年までの2回首相を務めました。2期目早々に首相を引退した理由は当初不明とされていましたが、のちにアルツハイマーを患っていたことが原因だったのではないかという説も上がりました。

『ザ・クラウン』シーズン3の第10話では、ウィルソンと女王の最後の謁見の様子が描かれています。ウィルソンは病気のことをそのまま女王に述べ、女王はウィルソンが去ることを非常に残念そうに語るのです。

実際引退の際に女王とどのような会話がなされたのかはわかりません。けれど、ドラマの中で展開されたような会話があったとしてもおかしくない、それほどの信頼関係があったのではないかと思えたのです。


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もわりー
もわりー
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