読書

『お探し物は図書室まで』ー青山美智子さんからもらったステキな時間

もわりー

2023年12月はじめ、嬉しいニュースを発見しました。アメリカのニュース雑誌である『TIME』が発表した「今年の必読書100冊」の中に、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』が選ばれたとのこと!

青山美智子さんの本は何冊も読んだことがあり、好きな作家さんの1人です。ちょうどそのニュースを知った10日ほど前にも、『お探し物は図書室まで』をKindle本まとめ買いキャンペーンで購入していたところでした。(海外在住者にとって、電子書籍で日本の本を購入できることはとてもありがたいことなのです。)

心の中にフワッとやわらかくて優しい何かが入ってきて、背中を押されて元気になれる本でした。

すでに読んだことがある方はもう一度振り返りながら、そしてまだ読んだことのない方には是非読みたいと思ってもらえることを願い、一緒にこの本の世界をたどっていきましょう。

1 『お探し物は図書室まで』はどんな本?

この本は5章に分かれており、それぞれ違う5人の人物のストーリーが描かれています。それぞれの章のタイトルが主役の人物になっています。

1章 朋香 21歳 婦人服販売員

2章 諒  35歳 家具メーカー経理部

3章 夏美 40歳 元雑誌編集者

4章 浩弥 30歳 ニート

5章 正雄 65歳 定年退職

年齢、性別、境遇など全く違うのですが、主人公のまわりにいる人たちも含め、読んでいるとそれぞれに共感してしまい、主人公の世界に入り込んでいる自分がいるから不思議です。

自分の仕事に満足はしていないけれど何をすればよいのかわからない女性、いつかやりたいと思っていることがあるけれど動き出せずにいる男性、産休後に会社に復帰したものの思うように活躍できずに苦しむ女性、自分らしさを発揮できずに居場所が見つからずにいる男性、定年退職したことで社会から離れてしまったように感じる男性。

5人はそれぞれ、近所の小学校に併設されている「羽鳥コミュニティハウス」に足を踏み入れます。そこでは、さまざまな講習会が開催され、野菜などを販売しているマルシェもあります。そして、図書室もあるのです。

みんなコミュニティハウスを訪れる理由は異なりますが、図書室へと、そして司書がいるリファレンスカウンターへと足を運びます。

そこで、「小町さゆり」さんという名前の司書に出会います。

2 質問はいつも「何をお探し?」

カウンターの前までやってくると、まずみんな驚きます。ベージュのエプロンをかけたとても大きな女性が、下を向いて一心に何かに打ち込んでいるのです。その女性こそ、小町さゆりさんです。

初めて小町さんを見た時の感想は、5人それぞれ違います。

”ディズニーアニメの「ベイマックス」”のようだったり、”神社に置かれた巨大な鏡餅”のようだったり。皆さんも想像できますか?

そして、小町さんは頭に白い花飾りがついたかんざしをつけており、そばには洋菓子メーカー呉宮堂(くれみやどう)のドーム型ソフトクッキーであるハニードームの箱が置かれています。

この2つがなぜ小町さんのお気に入りであるのかは、本を読んでいると出てきますよ。

ちょっと近寄り難い雰囲気を感じて、立ち去ろうとする人もいます。でもそんな時、決まって小町さんは顔をあげて尋ねます。

「何をお探し?」

その言葉は、とっつきにくいと感じた人物から発せられたとは思えないような、”身も心もゆだねたくなるような” ”温かみのある” ”いつくしみに満ちた” 声で発せられるのです。

それぞれ探していた具体的な内容の本があるのですが、気づくと小町さんに自分の境遇を語っています。

それから小町さんはまるで魔女が呪文を唱えるかのような、何かの儀式かのようなものすごい速さでパソコンのキーボードを打ち込み、探していた本が数冊リストアップされた紙を差し出します。

リストには必ず、「これはなんで?」と思われる間違って入ってしまったかのような本が書かれています。さらに、小町さんは引き出しを開けると、あなたにはこれね、と言いながら何かを取り出します。

それは、小町さんが熱心に取り組んでいた羊毛フェルトで作ったマスコットなのです。

横たわって眠るネコであったり、地球であったり、カニであったり。

小町さんは言います。それは本の「おまけ」だと。

小町さんに薦められた無関係に思えた本と、おまけでもらったマスコットを手にしてから、それぞれの主人公の生活は変わっていきます。

”こうでなくてはいけないというものではなく”、”いつでも軌道修正ができる” ”どんな形にも大きさにもなる” 羊毛フェルトのように。

3 『お探し物は図書室まで』もわりーの感想

青山美智子さんの小説がステキな理由の一つ、それは本の中でそれぞれの章の登場人物がつながっているところだと思います。

それぞれの主人公が同じコミュニティハウスへ行くのですから、近所に住んでいるということになります。でも場所の問題ではないのです。小町さんをはじめ、コミュニティハウスで働く人たち、そこを訪れる人たち、その人たちと仕事や生活で関わる人たちがつながっていくのです。それは素晴らしい”ご縁”なのです。

一般的に短編小説といえば、それぞれ全く違うお話が何編か掲載されている本もあります。そのような本の中でも、心に残るステキな本はたくさんあります。あのあと、主人公の女性はきっと新しい世界に飛び込んで活躍しているのだろうな、など自分で想像を膨らませて小説は終わります。

けれど、青山美智子さんの短編集はその想像を確信に変えてくれるのです。

あ、やっぱり彼女はこうなっていたんだ、彼はついにそんなことまでできるようになったんだとその後の様子をきちんと読ませてくれるのです。時には、あ、そこでもつながっていたの! とうれしい驚きでニヤけてしまうこともあります。

『お探しものは図書室まで』の”お探しもの”には、さまざまな意味があって良いのです。小町さんがお好きなハニードームのコマーシャルソング、

どうどう どうどう どうですか
あなたもわたしも どうですか 
ハニードーム

この”どう”には”どうですか”と”ドーム”と呉宮堂のどう”と英語のドゥDo”というさまざまな意味が込められているのだそうです。小町さんが発見していました。

”お探しもの”にもたくさんの意味があり、たくさんの可能性がある、それを知って登場人物たちは自分の道をすすんでいきます。そして、たくさんの可能性は本の世界だけの話ではないということを、読んでいる私たちにも気づかせてくれます。

3章で登場する夏美さんが本を返却するときに言いました。

「買います。この本は欲しいと思って」

小町さんはその言葉を聞いて、読むだけじゃなくて手元に置いておきたいと思えるような本とのかけ橋になれたことがうれしいと言います。

私にもそんな経験がいくつかあります。

図書館で見つけて読んだ本。とてもステキだったので返却した後に実際に購入して手元に残している本があります。その本は、気持ちが沈んでしまった時に手にとると本を読んだ時の気持ちがよみがえり、自分があの時に感じたことを思い出させてくれるのです。

小町さんがいなくても、探し物はそれぞれの図書室できっと見つかると思います。

この本は2021年本屋大賞の2位にも選ばれています。

あらゆる年代の方々にオススメの本、手元に置いて何度もていねいに読みたい「必読書」なのです。

ABOUT ME
もわりー
もわりー
日本→ウィーン15年→現在ロンドン在住です。
書くこと・なにかをつくり出すことが好きです。

記事を読んでいただいた方をステキな旅へと案内できたら、そんな思いで書いていきます。

どうぞよろしくお願いします。
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