小説『かがみの孤城』ー辻村深月さんのファンタジーで、メルヘンで、究極のミステリー
2018年本屋大賞を受賞した辻村深月さんの小説『かがみの孤城』。
この本が話題になり、紹介文を読んだ時、今の自分とは境遇が違う話だから共感できそうもないなと決めつけ、読む気になれなかったのです。
ごめんなさい。私は間違っていました!
この本はどんな年齢の人、どんな境遇の人が読んでも面白い!と思える小説です。
このストーリーの詳細に触れずに魅力を説明するのは難しいところもありますが、まだ読んでいない人にも是非手にとってもらいたいと思えるように、この本について見ていきたいと思います。
1 『かがみの孤城』はどんな本?
主人公は中学1年生の女の子、こころ。中学生に入り、近所に住む転入生の友達もできて、新しい学校生活をはじめていました。しかし、同じクラスにいるある女子生徒の行動により、突然こころの周りが変わってしまいます。不条理な疎外感と恐怖から、こころは学校へ通えなくなってしまいます。お父さんとお母さんは朝から仕事に出かけ、日中こころは自宅の自分の部屋でひとりで過ごすのです。
そんな5月のある日、突然こころの部屋に置かれた大きな姿見の鏡が光を発して輝きます。驚いて手をかざしてみると、手のひらから鏡の中に吸い込まれていきます。そして、辿り着いた先には、狼のお面をつけた少女がいたのです。そして、そこには童話の世界に登場するようなお城が立っていました。狼のお面をつけた少女はこころに言います。
「あなたはめでたくこの城のゲストに招かれました」と。
それからこころには、自宅の自分の部屋ともう一つ、この鏡の中にあるお城での世界ができたのです。
このお城が開城している時間帯は、日本時間の朝9時から夕方5時まで。その間部屋の鏡が光って、自分の部屋と鏡の奥の世界を行き来できます。
両親が仕事に出かけた後、こころはこの鏡の中のお城で過ごすことになります。そこは、必ず行かなければいけないところではありません。行きたい時に行って、好きなように過ごせば良いのです。
このお城が開城しているのは、翌年の3月30日まで。
約1年の間、こころはそのお城でどのような日々を過ごすのでしょう。
2 ファンタジーでメルヘンで、そしてミステリー
鏡が光ってその中に入っていくという設定は、ファンタジーですよね。そして、童話に登場する西洋のお城のようなところで過ごすのですから、非現実的な異世界の物語なのかな、という印象を受けます。しかし、本を読んでいると、ファンタジーの世界のストーリーという現実とかけ離れている世界の出来事という感覚にはならないのです。
お城には、こころの他にマサムネ、スバル、リオン、ウレシノ、アキ、フウカの6人が同じように行き来することができます。みんなこころと同年代の中学生です。
みんなそれぞれ好きな時に城にやってきて、それぞれ好きなことをして過ごします。広間でみんなでゲームをしたり、食堂でお茶を飲んでお菓子を食べたり。
それぞれに自分の部屋があり、そこで過ごすこともできます。
そもそも、お城に集められたこと、お城が存在することには理由があったのです。
狼の面をつけた少女ははじめに言います。
「この城の奥には、誰も入れない、”願いの部屋”がある。入れるのは一人だけ。願いが叶うのは一人だけだ」
そう、ここでは誰か一人の願いを叶えることができるのです。そのために、願いの部屋に入る”願いの鍵”を探すことがこころたち7人に課せられたミッションなのです。
狼の面をつけた”オオカミさま”は、こころたちに少々威圧的な話し方をしますが、ピアノの発表会で着るようなかわいいドレスを身につけている少女。そして、大広間のホールや絨毯の敷かれた階段や大時計のあるお城が舞台となり、”願いの部屋”に入るための”願いの鍵”を探すだなんて、まるでかわいいメルヘンの世界を連想させます。
しかし、この小説はかわいいメルヘンのお話ではなく、謎がたくさん詰まったミステリーなのです。
”願いの鍵”は見つかるのか、誰がどんな願いを叶えるのか。
みんな気ままに過ごしているようでも、やはり願いを叶えたくて、願いの鍵を探します。けれど、その鍵はなかなか見つかりません。
”オオカミさま”は言います。鍵探しのヒントは充分過ぎるほど出していると。
城の中で築かれていく7人の友情とともに、鍵探しという謎解きが描かれ、さらにこの7人を取り巻く究極のミステリーが展開されていくのです。
3 『かがみの孤城』もわりーの感想
夢中になってこの本を読み終えて、私の心の中に湧き上がった感情は、「怖い」という気持ちでした。
思いがけないところからゾンビが登場するようなホラーでもなく、次々と密室で殺人が行われていくようなたぐいのお話でもありません。
このお話は、自分にも、誰にでも起こりうるようなお話だと思いました。
このストーリーは、中学生という多感で無邪気でそして残酷な気持ちを抱く年代を主人公にして描かれていましたが、こころやお城の子供たちが感じていることが書かれた描写やセリフは、中学生でなくても、大人になっても感じることがある気持ちでした。
人間関係に戸惑いを感じて不安になるという感情は、どんな年代の人たちにも起こりうることですよね。
そして、”オオカミさま”が出したヒント以外にも、ここでわかったはずだった、ここで違和感を感じるべきだった、などなど、読者として読み過ごしていたことがたくさんあったことがわかり、その思いが最後の最後まで続くのです。すごいですよ、このストーリー。
そして、本の中で読み過ごしてしまったようなことは、本の中だけではなく、現実世界でも起こりうること。そういう気持ちで、改めて自分の日常生活で起きた会話や行動を見直すことができる。だから、本って面白いな、と改めて思いました。
この小説が、書店で働く人たちによって、”読んでもらいたい”、という気持ちを込めて投票される「本屋大賞」に選ばれたということ、とてもうなづけます。
今回は、まだこの本を手に取っていない方にも紹介したいという気持ちで書きましたが、読んだ人たち同士で、あのトリックはすごかったね、などと感想を言い合いたいという気持ちにもなる本でした!
このストーリーはアニメで映画化されました。
2月9日(金)に金曜ロードショーで放映されるようですので、是非お見逃しなく!