Spirited Away 千と千尋の神隠し ロンドン公演2024

もわりー

2024年5月から、ロンドン在住の日本人の間で飛び交う会話があります。

「この間、『千と千尋の神隠し』見に行ったんだ」
「あ、私も見た! すごくよかったよね」
「そうなんだ。まだ見てないけど、やっぱり見てみたいな」

見た人はみんな口を揃えて、よかったと言い、見てない人は見てみたくなるのです。
2回、3回と繰り返し見ている人も少なくありません。

そして、私も見に行きました。
はい、とてもよかったです!

今回は、その『Spirited Away 千と千尋の神隠し 』のロンドン公演についてご紹介していきます。

1 『Spirited Away 千と千尋の神隠し』ロンドン公演の感想

『千と千尋の神隠し』は、2001年に公開されたスタジオジブリ制作の映画ですよね。

ジブリ作品の中でも人気が高い作品と言われており、この映画のファンの方は多いのではないでしょうか。

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小学生の女の子千尋(ちひろ)は、引越しの途中両親に連れられて不思議な場所に迷い込みます。無断で屋台に並ぶ食べ物を口にしてしまった両親が豚の姿に変えられてしまい、千尋は両親を助けるため、生きるために奮闘し、成長していく物語です。

千尋が迷い込んだ場所は八百万の神々が住む世界で、神様たちが訪れる油屋という湯屋(銭湯)がある場所でした。千尋を助けてくれた少年ハクから言われた通りに行動をし、生きるために油屋で働くことになります。

その油屋には、湯婆婆(ゆばあば)と呼ばれる女主人がおり、彼女と契約をしたことで千尋の名前は”千(せん)”に変えられてしまいます。千は、先輩のリンに助けられながら慣れない仕事に一生懸命取り組みます。その間、竜に姿を変えたハクは、湯婆婆の指示で危険を犯し、傷を追ってしまいます。

ハクを助けるため、千は困難に立ち向かいます。そして、千を取り巻く仲間たちと一緒に、クライマックスを迎えるのです。

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油屋にはあらゆる神様がお客様としてやってきます。油屋で働く従業員や湯婆婆の周りにもユニークな生き物たちが登場します。そんな不思議な世界観を、本当に舞台で表現することができるのだろうか、正直そんな半信半疑な気持ちもありました。

そして、実際に舞台を見た私は、映画を見た時よりも素晴らしい感動を覚えていました。

映画は映画館で見たわけではなく、動画配信で自宅で見たので、迫力がなかったからかもしれません。でも個人的には、映画では冒頭の千尋のお母さんの態度が、私をネガティブな気持ちにさせました。どうして千尋に対してあんなに冷たい態度なのだろうか、と。それが忙しい日々を送る日本人の母親らしさなのだろうかと、とても気になってしまったのです。

ロンドン公演の舞台は、日本公演と同じ出演者が日本語で演じています。そして、舞台脇に英語の字幕が出ていました。英語の勉強のためにも、字幕を追いながら見てみようかなと思いましたが、実際は舞台に魅了され、字幕を見ている余裕はありませんでした。

観客の大半は非日本人でした。

きっと先に映画を見て、ストーリーを知っている人が多いのかなと思いました。みなさん同じように舞台に釘付けになっていました。

千と同じピンク色の作業着を着た白人の女の子の姿を見かけ、微笑ましくなりました。

このロンドン公演を見た人たちとの間で意見が一致したことは、実際に演じている役者さんたちが素晴らしいことはもちろんのこと、舞台の作り方が見事で、おお〜 と思わされることがたくさんあったことです。

具体的にこのSpirited Awayの舞台に携わった人たちを紹介しながら、舞台の素晴らしさについて見ていきたいと思います。

2 『Spirited Away 千と千尋の神隠し』 英国と日本の共同制作

1)ジョン・ケアード氏と今井真緒子さん

そもそも、この『千と千尋の神隠し』が舞台化されることになった背景には、英国の舞台演出家であるジョン・ケアードさんとその奥さんである今井真緒子さんがいたことをご存知でしょうか。

日本での舞台公演に際して、制作を手がけた演出家は、ジョン・ケアード氏でした。

ミュージカル『レ・ミゼラブル』やシェイクスピアの劇、『ラ・ボエーム』などのオペラなどさまざまな演出を手がけるジョン・ケアードさんの奥さまは、日本人の今井真緒子さんです。自らも役者さんとして活躍しており、『千と千尋の神隠し』の舞台でも、演出補佐と翻訳を手がけています。

真緒子さんがお子さんにジブリ映画を見せており、その時に『千と千尋の神隠し』を見たケアードさんが、この作品を舞台化したいと思ったことが始まりだったという記事を読みました。

日本の帝国劇場での『レ・ミゼラブル』の演出も手がけたケアードさんと真緒子さんだからこそ、実現できたこの『千と千尋の神隠し』の舞台化だったのですね。

この舞台公演は、東宝の制作により2022年に日本で行われました。

東京、大阪、福岡などで行われた公演は、すぐに人気作品となり大成功を収めたのです。

2)PW プロダクション

2022年6月、日本でこの公演をPepter Wilson ピーター・ウィルソン氏Iain Gillie イアン・ギリー氏が見ていました。そして、この2人が属するPWプロダクション制作により、2024年のロンドン公演の話が進んだのです。

『Spirited Away 千と千尋の神隠し』の劇場パンフレットの中で、イアンさんは言っています。

“When Peter and I visited Japan in June 2022 to see Toho’s production of Spirited Away, we were blown away and knew it had to be shared with audiences around the world.

「ピーターと私は2022年6月東宝が制作した千と千尋の神隠しを見ました。そして、そこで私たちは圧倒され、世界中の人たちのこの公演を届けなければいけないと感じたのです」

PWプロダクションは、ロンドンのウェストエンドで活動をしている制作会社です。

公演の実現まで2年弱という短い時間で、見事ロンドン公演までこぎつけたのです。

そして、この『千と千尋の神隠し』のロンドン公演の実現に向けて進んでいた矢先、PWプロダクションの創始者であるピーター・ウィルソン氏は2023年9月に息を引き取りました。

この公演をピーターに捧ぐ、パンフレットにはそのように書かれています。

3)パペットデザイン

『Spirited Away 千と千尋の神隠し』の舞台を素晴らしく仕上げている背景のひとつに、パペット、人形の存在を語らずにはいられません。

赤い衣装に身を包んだ春日さま、千尋と一緒にリフトに乗り合わせる大きなおしらさま、卵の姿で食べられてしまい生まれることができなかった神様と言われるオオトリさま、そして千が担当した大きな湯船に浸かってたくさんの泥とゴミを洗い流したオクサレさまなどなど、多くの神様たち。

そして、ハクが姿を変えた、ポイラー室を切り盛りする釜爺(かまじい)のたくさんの手足やそこに現れる小さなすすの集団であるススワタリ、さらに湯屋で働く青蛙や湯婆婆に仕える頭(かしら)湯バード、坊が姿を変えたネズミなど、作品の中でとても重要な役を担うのがパペットたちなのです。

人間とパペットが共存して演じることに違和感のようなものが起こりそうですが、この舞台では全く違和感を感じることなく、むしろあまりにも自然で見事な動きに驚嘆させられるのです。

人形の作りはもちろんのこと、それらを動かしている人たちもまた素晴らしいのです。

このパペットデザインを手がけたToby Olie トビー・オリエさんDaisy Beattie デイジー・ビーティーさんが、このSpirited Awayのパペット制作に関して話している動画を見つけました。よかったら是非こちらものぞいてみてください。

映像と同じように不思議な世界を演出しているこのパペットは、友人たちの間でも必ず話題に上がり、みんなが絶賛していました。

個人的には、どれが一番印象に残ったかと言うと・・・ 緑の頭を3つ持つ”かしら”でしょうか?

そして、あのカオナシのお面もまた印象的でした。

4)MUSE Creative communications – デザインモチーフ

ロンドン公演の『Sprited Away 千と千尋の神隠し』を視覚化している最も重要で印象的なものといえば、あのデザインモチーフです。

ハクの竜と千尋が一体化した絵は、この作品の世界観を端的に表しており、まさにこの舞台のデザインにピッタリなのです。

このデザインはいつから使われているのか、日本の舞台公演の時にすでにあったのか、疑問に思って調べてみましたが、どうやらロンドン公演にあたり制作されたもののようです。

制作会社は、MUSE Creative communicationsというところでした。

芸術、文化、エンターテイメントのあらゆる分野でのデザインを制作しているところです。

『ハリーポッターと呪いの子』や『オズの魔法使い』などの劇場デザインなども担当しているようです。

Sprited Awayのロンドン公演初日、Xへの投稿がありました。

ロンドンで千と千尋の神隠しと言えば、このデザインがすっかり定着しています。

3 まだまだ素晴らしいことであふれているSprited Away

公演の劇場パンフレットを見ていると、出演される方々の人数だけでもものすごい数であることがわかります。そして、そのほか舞台に関わる人たちも合わせると、総勢一体どれくらいの人が日本からこのロンドン公演のために渡英しているのだろうか、と驚きます。

それだけ大掛かりなつくりによって、これだけの素晴らしい舞台が成り立っているのだと思うと大きく頷けます。

英国で制作を担当したPW Productionのイアン氏は、パンフレットに寄せた挨拶の最後に言っています。近年で最も大きな文化交流の一端を担えたことに感謝しています、と。

ロンドンに住む私たち日本人の間でも、この『千と千尋の神隠し』の舞台の話をすることで、たくさんの意見交換が行われています。普段は異なる境遇で過ごす、様々な年齢の人たちの間でも、この作品を通して話が盛り上がることも素敵だなと感じました。

スタジオジブリの鈴木敏夫氏は、パンフレットの中で言っています。

2024年は日本の干支では辰年です。このドラゴンのように、2024年は新しいチャレンジと成功の年なのだと。

2024年にロンドン公演が行われ、そこから感動をもらえたことに感謝しています。

ロンドン公演は2024年8月24日まで行われます。

大人気ですが、まだチケットの入手は可能なようです。

是非劇場で、この日英共同制作のSpirited Awayの世界を満喫してください!

劇場では、うれしいオリジナルグッズも売っているので、ショップをのぞくこともお忘れなく。

ABOUT ME
もわりー
もわりー
日本→ウィーン15年→現在ロンドン在住です。
書くこと・なにかをつくり出すことが好きです。

記事を読んでいただいた方をステキな旅へと案内できたら、そんな思いで書いていきます。

どうぞよろしくお願いします。
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