16) エリザベス女王(2世)ー英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ Season 5 & 6

もわりー

Netflix制作の『ザ・クラウン』を見始めたきっかけは、単純に英国王室についてのドラマだなんて面白そうだなという気持ちからでした。けれど、シーズン1を見ているうちに、登場人物がとても魅力的で、過去の歴史的出来事も大変興味深く、人物や事実関係について調べてみたくなったのです。そして、この『ザ・クラウン』から学ぶシリーズが始まりました。

そして、今回はいよいよ最終回になります。取り上げる人物は、このドラマの主役であるエリザベス女王です。

これまで、エリザベス女王のことは、家族や首相の記事を書く中でふれてきました。そして、ファイナルシーズンとなった6を見て、最後にエリザベス女王についての記事を書きたくなりました。

このドラマの脚本家ピーター・モーガン氏も、とりわけ最後は女王個人に焦点をあてて製作されたのだと思われます。シーズン1から見始めて、この脚本家の作り方は素晴らしいなと何度も思いました。モーガンさん、ステキな時間をありがとうございました。

では、シーズン5と6の中での出来事をたどりながら、エリザベス女王について見ていきましょう。

1 ウィンザー城の火災

『ザ・クラウン』シーズン5の第4話では、ウィンザー城が火事に見舞われるシーンが映し出されました。ウィンザー城と関係のない生活をしている私にとっても、ショックな出来事でした。ならば、ウィンザー城が居城の一つであったエリザベス女王にとって、どれほど衝撃的なことだったでしょうか。

1992年11月20日ウィンザー城の火災が発生しました。ヴィクトリア女王のプライベートチャペルで、欠陥があったスポットライトがカーテンに発火したことから火は燃え広がりました。午前11時半頃から起こった火事はみるみる広がっていき、115部屋が被害を受けました。近隣の町の消防車・消防士が集められ、39台・225人により消化活動が行われました。12時間後の23時頃までにほぼ消火、完全に消火活動が終了したのは夜中2時半頃でした。

これだけ大規模な火災でしたが、絵画や陶器などの王室のコレクションは、大型のサイドボードと壁にかけられた大きな肖像画の2点を残し、無事に運び出されました。

ドラマの中でも描かれていましたが、エリザベス女王は火災が発生した午後に1時間ほどと、翌朝にウィンザー城を訪れました。焼け落ちた城の様子を眺める消沈したエリザベス女王と、隣で支えるフィリップ殿下の姿はとても印象的でした。

火災が起きた4日後、女王の在位40年を記念したルビー・ジュビリーのスピーチが行われました。その際、この1年を振り返って「アナス・ホリビリス」というラテン語の言葉が使われました。日本語ではひどい年であったという意味合いです。

1992年は、エリザベス女王にとって辛いことが起きた年だったのです。

ウィンザー城の火災のほか、4人の子供たちのうち3人の結婚が破綻しました。チャールズは、ダイアナが本を出版したことにより別居、アンは離婚、アンドリューの妻セーラのスキャンダルがタブロイド紙で取り上げられ別居・・・

ウィンザー城の修復には莫大な費用がかかりました。そのため、ロイヤルファミリーが夏にバルモラル城で過ごす間、バッキンガム宮殿を一般公開してその入場料を修復の資金に当てることにしたのです。修復が終わった今でも、バッキンガム宮殿は夏の間、期間限定で観光客が訪問できるのです。

旅がもっと面白くなる!イギリス編ー2 英国王室現役の住居であるバッキンガム宮殿について探り、実際に中に入ってみよう!

2 変革が求められる英王室

エリザベス女王は25歳で英国の女王に即位してから、あらゆる場面で自分の感情を前面に出さずに、国家のために生きてきました。そんなエリザベス女王に、変革が求められた時がありました。ダイアナ元妃の事故死の後です。

ダイアナとチャールズは前年1996年に正式に離婚が成立していました。エリザベス女王は2人の仲が修復してくれることを願っていましたが、かなわなかったのです。そして、ダイアナは王室から離れた身となっていました。

そして、1997年8月31日ダイアナが恋人とされるドディ・アルファイドと一緒に乗った車がパリのトンネルで衝突事故を起こし、その後ダイアナの死が確認されました。

『ザ・クラウン』のシーズン6第4話ではその時のことが語られています。

エリザベス女王をはじめ、フィリップ殿下、チャールズ皇太子、メアリー王太后、そしてチャールズとダイアナの息子たちウィリアムとハリーはスコットランドのバルモラル城にいました。就寝中に事故のニュースが入ってきました。それからダイアナの安否を案ずる不安な時間を過ごし、朝方ダイアナの死が報告されます。

その時、王室ファミリーであってもやはり家族として、子供たちの気持ちを第一に考えていたのではないでしょうか。

女王たちは傷ついたウィリアムとハリーをそっと見守りたいと考え、マスコミ報道からも遠ざけて過ごしたいと考えました。ダイアナはその時点で王室とは関係のない人となっていたのです。けれど国民たちは、英国の王室ファミリーとして、ダイアナ元妃への追悼の声明がエリザベス女王によって出されることを期待していたのです。

実際、ダイアナ元妃の死は英国だけでなく、事故が起きたパリや世界中で嘆き悲しまれました。そして、ダイアナの住まいであったケンジントン宮殿前は、ものすごい数の献花が集まり、町中のあちこちでダイアナの死を嘆き悲しむ人たちの姿であふれていたのです。

ダイアナの事故が起こる数ヶ月前に43歳で首相に就任したトニー・ブレア氏は、ダイアナの死を受けてすぐに哀悼の演説をしました。その時に言った、「彼女は人々のプリンセスでした」という言葉は、国民の心に響いたのです。

ブレア首相は、エリザベス女王に国民に対して追悼の言葉を表明することや、バッキンガム宮殿に半旗を掲げることを何度も進言しますが、女王はそれに応じません。

そんな中、『ザ・クラウン』の中ではウィリアムが屋敷からいなくなるという騒ぎが起きます。みんなで捜索しますが見つかりません。そして、夕方1人で屋敷に戻ってきたのです。そんなウィリアムの様子を見て、国民もみんな、ダイアナの死という大きな悲しみに直面して、動揺した気持ちを抑えられずにおかしな行動をとっているのではないかと気づくのです。

エリザベス女王は、ブレア首相のいう通りロンドンへ戻り、バッキンガム宮殿に半旗を掲げます。そして、9月5日葬儀の前日に、国民に向けて異例のスピーチをおこなったのです。

ドラマの中では、その後第6話で国民がブレア首相を絶賛し、王室がなくなっていくという夢をエリザベス女王が見るところから始まります。このストーリーはフィクションでしたが、ダイアナの死以後、王室の人気が下がっていることを受け、変革が求められていることを重く受け止めていたのだと思われます。

昔からエリザベス女王を応援し、共に活動をしてきた婦人会からの女王への支持は変わらず好意的で、ブレア首相は彼女たちから支持を得られなかったという話もありましたが。

ダイアナ元妃の事故死に対する女王の対応については、『ザ・クラウン』と同じ脚本家ピーター・モーガン氏によって書かれた2006年の映画『クイーン』でも語られています。この映画の中で描かれたブレア氏の女王に対する思いは素敵でした。

3 マーガレット王女の死

シーズン6第8話では、マーガレットとエリザベスのことが描かれます。

マーガレット王女のことは、これまでシーズン1から3を通して書きました。

3) マーガレット王女 1 ー 英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ Season 1
7) マーガレット王女 2 ー 英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ Season 2 & 3

その後もたびたびマーガレットは登場しています。いつも女王の近くで話を聞き、支えとなっていました。

シーズン6で登場したマーガレット王女は、残念ながら健康ではありませんでした。スノードン卿と結婚する際に入手したお気に入りのマスティク島の別荘を訪れたマーガレットは、友人たちとパーティーを楽しむ席で、脳卒中の発作を起こして倒れてしまいます。回復してロンドンへ戻ってきたマーガレットを、エリザベスは心配します。翌年またマスティク島を訪れた際、シャワーを浴びている時に再び発作を起こし、誤ってお湯の蛇口を熱くひねってしまい、意識を失って足に火傷を負ってしまいます。それから、歩行にも支障をきたすようになり、車椅子で生活することもあったようです。

ドラマの中では、それでもマーガレットは、自身の70歳の誕生日を盛大にリッツホテルで祝いたいと主張し、実行します。パーティーは実際に、誕生日から数か月後に息子デイヴィッドの主催でリッツホテルで行われたようです。

リッツホテルは、マーガレットとエリザベスが秘密を共有するとても良き思い出の場所だったのです。英国が終戦を迎えた1945年の5月8日、町の人たちと一緒に終戦を喜びたいとマーガレットとエリザベスは夜宮殿を抜け出し、お忍びでリッツホテルを訪れたのです。はじめはおどおどしていたエリザベスですが、マーガレットと付き添いの男性から離れて楽しそうにダンスを踊っていたのです。マーガレットはその時の楽しそうな、誰も知らないエリザベスの姿をずっと心にしまっていたのです。

終戦の日に、2人が宮殿から街に出て、賑やかに過ごす人たちに混ざってお祝いを楽しむという話は、映画『ロイヤル・ナイト』でも描かれていました。その映画を見た時は、非現実的な話だと思っていました。そして、その話が再び『ザ・クラウン』の中でも登場するということは、どういうことなのでしょうか? はい、現実にあったことだったのです。

国王であるジョージ6世と母親のエリザベス王妃の許可を得て、宮殿関係者の人たちと一緒に16名ほどで宮殿から町に出かけたようです。そして、リッツホテルに行ったことも事実なのだそうです。

ドラマの中の回想シーンでは、バッキンガム宮殿に戻った2人ですが、マーガレットはそこでエリザベスに別れを告げます。もう一緒にいられないと。

マーガレット王女は2002年2月9日、71歳でこの世を去りました

マーガレットの葬儀は、ウィンザー城のセント・ジョージチャペルで家族と友人の間で行われました。

この時、エリザベス女王は初めて公の場で涙を拭う姿を見せたそうです。

エリザベス女王とマーガレットの間には非常に深い絆があったのです。エリザベス女王にとって、マーガレットは生まれた時からずっと一緒にいる存在で、学校に通っていなかった2人にとっては、お互い友達のような存在でもありました。

マーガレットはダイアナ妃のことを可愛がって仲良くしていました。しかし、やがてチャールズと不仲になり、ダイアナ妃が王室について本やテレビインタビューでネガティブな発言をすると、王室を、そして女王をおとしめた人物と考えるようになり、不仲になっていったそうです。

マーガレットは自身の結婚のことでエリザベスを恨むこともあったかもしれません。けれどそれでも、エリザベスが国のために尽くすのと同じように、マーガレットは女王である姉エリザベスのために公務に励んで尽くしたのです。そして、いつもエリザベスの心の支えになっていたのです。

マーガレットを失った7週間後に、母親のクイーンマザーが101歳で亡くなりました。エリザベス女王は、どれほど寂しい気持ちになっていたことでしょうか。

4 『ザ・クラウン』ファイナルシーズン最終話

6シーズンにわたって描かれたエリザベス女王のストーリー『ザ・クラウン』。最終話では、エリザベス女王が崩御された時の動きを表すコードネーム、”ロンドンブリッジ作戦”について話し合われるシーンが描かれました。

なかなか自分の死が訪れた時のことを積極的に話し合いたくはないものですが、フィリップ殿下に背中を押されるように葬儀について考えていきます。

フィリップ殿下は、自分の棺はランドローバーで運んで欲しいと打ち合わせをします。

2021年4月17日ウィンザー城のセントジョージチャペルで行われたフィリップ殿下の葬儀の際には、フィリップ殿下の棺は特別に造られたランドローバーで運ばれました

そしてエリザベス女王は、毎朝目覚ましの曲をバクパイプを奏でてくれる奏者に、自分の葬儀で流すに相応しいバグパイプの曲はないかと質問します。困った彼は、戦死者のために奏でる曲はいくつかあると答えます。そして、女王はさらに、バグパイプ奏者に一番好きな曲を尋ねます。その答えは、「眠れ、愛しい人よ Sleep Dearie Sleep」でした。そして、その曲をその場で奏でるように女王は頼むのです。

この曲は、2022年9月8日にバルモラル城で崩御された後、9月19日にウェストミンスター寺院で行われた葬儀の最後に、女王専属のバグパイプ奏者によって奏でられました

ドラマの中でこの曲が流れた時、聞きながら鳥肌がたちました。とても美しい曲でした。

最終話では、チャールズ国王とカミラ王妃の結婚式の様子が描かれます。エリザベス女王は、その時に自らスピーチをしたいと名乗り出ます。スピーチ原稿は女王自身によって作成され、誰も内容を知りません。でも、みんなもしかしたら、と思っていました。

女王は迷っていたのです。

その時のスピーチで、自分は退位を表明し、チャールズに王位を譲るべきかどうかを。

ユーモアを交えながらスピーチは始まりました。そして、原稿は・・・ 読まれることなく飛ばされたのです。

式を終えた後、フィリップ殿下はエリザベス女王に言います。迷っていたことを感じさせなかった良いスピーチだったと。

後継者たちにはまだ引き継ぐ覚悟ができていない、エリザベス女王は生まれた時からずっと立派な女王だった、とフィリップは言います。

これはドラマの中のお話です。

エリザベス女王自身が退位を考えたことはなかったそうです。もしかしたら、実際はあったのかもしれません。けれど、フィリップ殿下が言ったように、エリザベス女王は生まれながらにして覚悟が備わった立派な女王だったと思います。

「私は、私の全生涯を、たとえそれが長かろうと短かろうと、あなた方と我々の全てが属するところの偉大な、威厳ある国家に捧げる決意であることを、あなた方の前に宣言いたします。」

次期王位継承者であったエリザベスが21歳の誕生日を迎えた際、外遊先のケープタウンのラジオ演説をおこなった時の言葉です。エリザベス女王は女王に就任する前から、すでにその覚悟ができていたのですね。

2022年6月に女王の在位70年を祝してプラチナ・ジュビリーの一連の行事が開かれました。その際、実写映画『パディントン』に登場したくまのパディントンと一緒にお茶をする様子のフィルムが流れ、世界中をほっこりした気持ちに包んでくれました。エリザベス女王は、国民に笑顔と安心を与えてくれる立派な女王でした。

『ザ・クラウン』を通して、エリザベス女王のさまざまな姿を知ることができました。

エリザベス女王をはじめ、家族・その周りの人たちについて記した記事、是非ご参照ください。

英国王室ドラマ『ザ・クラウン』から学ぶ シリーズ

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もわりー
もわりー
日本→ウィーン15年→現在ロンドン在住です。
書くこと・なにかをつくり出すことが好きです。

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