英国らしさがあふれる映画『パディントン』1・2 ー 大人も楽しめる心温まるコメディ
「クマのパディントン」って知っていますか? と聞かれると、おそらくこのように答えるのではないですか?
「もちろん知っています。子供向けの本でしょう」
はい、その通りです。
「クマのパディントン」は、英国人作家マイケル・ボンド氏によって描かれた、ロンドンで生活するクマのお話で、1958年に初めて創刊されました。そしてその後も、パディントンシリーズは長く続きました。
赤い帽子をかぶり、ブルーのダッフルコートを着て革のスーツケースを持つクマの姿は誰もが目にしたことありますよね。
その”パディントンベア”が、2014年にアニメーションではなく実写版として映画化されました。さらにその後2017年にも『パディントン2』が上映され、そしてここ英国では2024年秋に『パディントン3』の公開が始まりました。
この実写版映画『パディントン』も子供向けの映画だと思っている方が多いようなのですが、私は自信を持ってお伝えします。
大人の方も、是非この映画を見てください! きっと楽しめます!
では、この映画にどんな魅力がつまっているのか、是非一緒に見ていきましょう。
1 映画『パディントン』2014年公開
1)映画『パディントン』どんなストーリー?
ストーリーは、イギリスの探検家が暗黒の地ペルーで特殊なクマと出会うところから始まります。特殊な生物を捕獲して博物館に送ることが仕事であった探検家ですが、すっかり2頭のクマと仲良くなります。そして彼らに”パストゥーゾ”と”ルーシー”という名前をつけました。
人間界、ロンドンのことを話し、美味しいマーマレードジャムのレシピも教え、「ロンドンに来たら温かく歓迎するよ」と言ってペルーを去ります。
それから何年もの月日が流れ、この2頭のクマたちはみなしごの子供のクマと一緒に、ペルーでマーマレードジャムを作りながら平和に暮らしていました。ところがある日、大地震が起きてパストゥーゾおじさんは命を落としてしまいます。ルーシーおばさんは老クマホームに入ることを決断し、この子グマをロンドン行きの大きな帆船の救命ボートに忍ばせて旅立たせ、ロンドンで新しい家を見つけることを願います。
「このクマをよろしくお願いします Please look after this bear」という札を首にかけて。
港から荷物に紛れ込んでパディントン駅に到着した子グマは、スーツケースの上に座って新しい家族を探しますが、みんな冷たく通り過ぎて行きます。
そこで出会った一家が、ブラウンファミリーでした。
そして、奥さんはその子グマを駅と同じ名前の”パディントン”と名付けます。
一晩だけ家に泊めようということで、一緒にタクシーに乗ってブラウン家へ向かうパディントン。
家に着いてからも、慣れない人間の家で大騒動を起こします。
ブラウン一家は、ルーシーおばさんに温かく歓迎すると言ってくれた探検家を一緒に探してくれることになるのですが、初めて人間の家で暮らすパディントンは、様々なトラブルを起こし、事件にも巻き込まれていくのです。
それでも、パディントンはまっすぐな心で、くじけずに進んでいきます。
時には目を塞ぎたくなるようなドキドキする場面もある一方で、パディントンとブラウン一家や周りの人たちとの交流に心癒され、声を出して笑わずにはいられないような楽しいコメディなのです。
2)ロンドンらしさが描かれたストーリー
映画には様々なロンドンの名所が登場します。
パディントン駅からブラウンファミリーが住むウィンザー・ガーデンまでのタクシー移動では、ロンドンが初めてだというパディントンのために運転手が観光地を見せながら走ってくれます。そこで、タワーブリッジ、セントポール寺院、ビッグベンやロンドンアイなど、ロンドンの美しい夜景が楽しめます。
パディントンが乗るロンドンの地下鉄、バッキンガム宮殿の前にいる衛兵、そして自然史博物館も出てきます。
そして、何よりロンドンらしいと感じたところは、最後にパディントンがルーシーおばさんに書いている手紙の言葉です。
「ロンドンは変わり者だらけ。つまり誰でも溶け込める。
僕も変わり者だけど、ここは居心地がいい。
人と違っていても大丈夫。僕はクマだから」
初めの言葉は、ブラウン奥さんがパディントンに言った言葉なのです。
ロンドンに住んでいる日本人の私は、このパディントンのセリフにとても納得してしまいました。多国籍の人たちが集まるロンドンという町では、変わり者だからということで引け目を感じる必要はありません。みんながみんな、それぞれ違っていることが当たり前なのです。
そして、みんながそれを受け入れる、だから誰でも溶け込むことができる町なのです。
人間の生活の中に、たとえクマがいたとしてもまったくおかしくない、そんな風に思える町ロンドンだから、このストーリーが誕生して、世代を問わず愛され続けているのですね。
2 映画『パディントン 2』2017年公開
1)映画『パディントン 2』どんなストーリー?
ストーリーはまた暗黒の地ペルーから始まります。
パディントンとルーシーおばさん、パストゥーゾおじさんとの出会いが描かれ、パディントンとルーシーおばさんの強い絆が伝わります。
ロンドンで近所の人たちの生活にすっかり溶け込んだパディントンは、アンティークショップでルーシーおばさんに最高の誕生日プレゼントを見つけます。それは、ロンドンの名所が描かれた飛び出す絵本でした。長年ロンドンに憧れ、結局ロンドンに来ることができずに老クマホームに入ってしまったルーシーおばさんに、ロンドンを感じてもらいたいとパディントンは思いました。
けれど、そのアンティークの飛び出す絵本は世界に一つだけの高価な品でした。
そのため、パディントンはお金を稼ぐために仕事をします。
相変わらずドジをやらかすパディントンですが、ようやく仕事にも慣れ、あと1日で本が入手できるほどの貯金も貯まった夜、お店の窓から本を眺めていたら、お店に強盗が入っていく姿を目撃します。慌てて強盗を追って中に入ったパディントン。
強盗のターゲットは、あの絵本でした。
絵本を盗んで駆け出す強盗を追うパディントン。
しかし、パディントンが犯人だと思われて捕まってしまい、投獄されてしまうのです。
でも、パディントンはここでもくじけることはありません。
刑務所内でも珍騒動を起こしながらも仲間を増やし、人気者になります。
そして、パディントンの無実を信じるブラウン一家は、真犯人を見つけるべく奔走します。
パディントンの夢を叶えるべく奮闘する笑いと涙をよぶハートフルなストーリーです。
2) パディントンらしさが描かれたストーリー
『パディントン2』では、ロンドンの街で生き生きと過ごすパディントンらしさが描かれています。
忙しい日常で殺伐としてしまいがちなロンドンの朝の光景も、パディントンがいるとみんな笑顔になるのです。
仕事を初めて失敗をやらかしても、すぐにそこからリカバリーして人々の信頼を得るパディントン。
誰とでも仲良くなって仲間を増やすパディントン。
相手がどんなに強く怖いと恐れられている人でも、真っ向から立ち向かう姿が描かれます。
そんなまっすぐな思いは、ルーシーおばさんに届いて欲しいと祈らずにはいられないのです。
3 英国と結びついているパディントン
さて、映画『パディントン』について見てきましたが、まだこれは子供向けのストーリーでしょう、と思っている方もいらっしゃますよね。
ではそんな思いをお持ちの方々に、このパディントンが英国の人々と結びついているエピソードをいくつか紹介します。
1)エリザベス女王とのお茶会
2022年6月エリザベス女王の在位70年をお祝いするプラチナジュビリーの式典が4日間に渡り開かれたことはご存知ですか?
盛大なパレードやパーティーが開かれ、ロンドンもお祭り騒ぎとなりました。
そんなパーティーに、なんとパディントンも招待されていたのですよ。
本物のエリザベス女王と一緒にバッキンガム宮殿でお茶を飲み、大好きなマーマレードサンドイッチを女王に勧めるパディントンの姿が世界的に報道されました。
まだご覧になっていない方は、こちらから是非!
2)パディントン英国パスポートを取得
パディントンは船に忍び込んで入国したので、不法移民ではないですか!
しかし、先日英国中にこんなニュースが飛び込んできました。
”クマのパディントン 英国パスポートを取得 Paddington Bear gets a British Passport”
2024年に公開が始まった映画『パディントン3』では、どうやらパディントンはブラウン一家と一緒にルーシーおばさんがいるペルーを訪れるようなのです。
そのためにはパスポートが必要です。
映画の制作会社から小道具のパスポートを用意して欲しいと頼んだところ、本物の英国の法務局がパディントンにパスポートを用意してくれたのです。
そのパスポートはレプリカで、実際使用できるものではありませんが、英国の法務局は”クマ用”としてリストアップしてくれたのだそうですよ。
3)パディントンの作者も映画に友情出演
『クマのパディントン』は英国の作家マイケル・ボンド氏によって誕生した児童文学です。
ルーシーおばさんが、パディントンに「このクマをよろしくお願いします」と書いた札を下げさせるというアイデアは、実際ボンド氏の経験から誕生しているそうです。
第二次世界大戦の最中、ロンドンから疎開したボンド氏は、首から名前を下げてスーツケースを持って疎開した子供達の姿を目にしていたそうです。
ルーシーおばさんも、その話に触れていました。
きっと親切な国民性だから、助けてくれると信じて。
マイケル・ボンド氏は2017年に91歳で亡くなりました。
しかし、この映画の制作にも協力していたのです。
2014年に公開されたシリーズ1に、このボンド氏が友情出演しているという記事を目にしました。どこに登場していたのでしょうか?
はい、それはパディントンが駅でブラウン一家に出会い、ブラウンファミリーの家があるウィンザー・ガーデンまでタクシーで向かう途中のシーンでした。
タクシーの窓に張り付いて、初めて目にするロンドンの夜景に見惚れているパディントン。そして、レストランでワイングラスを持ちながらパディントンに目配せをする紳士がいました。彼が、本物のマイケル・ボンド氏なのです。
パディントンもきちんとボンド氏に向かって挨拶をしているのです。
これらのエピソードの数々から、クマのパディントンが英国から受け入れられていることを実感しますよね。
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また、この映画には大物ハリウッド俳優も登場しています。
ブラウン一家のお父さんは、あの『ダウントン・アビー』シリーズでも活躍しているヒュー・ボネヴィル。お母さんはサリー・ホーキンス。
そして、『パディントン』の中で悪役として登場するのは、ニコール・キッドマン。
『パディントン2』の悪役は、ヒュー・グラント。
彼らが演じるコメディについつい笑顔がと笑い声がこぼれてしまうのです。
ロンドンを訪れた気持ちになって、是非パディントンの映画をお楽しみください。
私もこれから『パディントン3』を見ることを楽しみにしています!