映画『ロンドン、人生はじめます』ー 実話を元に描かれた心温まるストーリ

なにげなく動画配信のホームページを見ていたとき、あるタイトルに惹きつけられました。
『ロンドン、人生はじめます』
ロンドンを舞台にしている映画は興味があるし、”人生はじめます” なんて、いかにも新しい人生を切り開いていく内容なのかなと思うじゃないですか。
私は迷わずに視聴しました。
ステキな映画でした。
私はロンドンの友人・知人にこの映画を勧めました。でも、話し始める時は、日本語のこのタイトルではなく、英語の原題を使いました。
『ハムステッド Hamsptead』を見たのだけれど、よかったよと。
そう、日本語のタイトルは、英語のタイトルとまったく違っているのです。
今回は、どうして日本語がそのタイトルになったのかという感想も含め、この映画『ロンドン、人生はじめます』について見ていきます。
1 『ロンドン、人生はじめます』はどんなストーリー?
主人公は、ロンドン北部のハムステッドHamsteadと呼ばれるエリアに住むアメリカ人の未亡人エミリー、ダイアン・キートンが演じています。
この映画が公開された2017年、ダイアン・キートンは71歳。おそらく、エミリーの設定も、60代後半から70代初めであったと思われます。
夫に先立たれたエミリーは、ハムステッドの高級住宅街にある、受付を備えた優雅なフラットに1人で暮らしています。夫の死後、実は夫が浮気をしていたこと、多額の負債を抱えていたことを知ります。それでもなにもできずに、ボランティアでチャリティショップで働き、近所のマダムの会合に出て、嘆願書集めの活動にも参加する、そんな生活を送っていました。
そんな時、すでに独り立ちをし、母親を心配する息子に言われます。
「ママ、前に進もうよ」と。
屋根裏の物置の片付けをはじめたエミリーは、双眼鏡を見つけます。窓を開けて外を見ると、川で水浴びをしている男性を発見します。それは、ハムステッド・ヒース公園に住む、いわゆるホームレスのドナルドでした。
その後も気になって双眼鏡を使って外を見ると、ドナルドの小屋が奇襲され、ドナルドが暴力をふるわれているところ見てしまいます。慌てて警察に連絡をするエミリー。
その後、近所のボランティア活動の途中、初めてエミリーとドナルドは出会います。
攻撃された際に警察を呼んでくれたのがエミリーだと知ったドナルドは、エミリーをディナーに誘います。
夕食は、ドナルド自身で釣った魚とナッツ類でした。
ドナルドは野菜も自分で育て、自給自足の生活をしていたのです。
その後もドナルドの自作の小屋を訪れたエミリーは、ドナルドと親交を深めて行きます。
土地開発業者からの退去を強いられていたドナルドを助けたいと思うエミリー。ひとり自分の殻に閉じこもっていた偏屈なドナルドと衝突しながらも、ドナルドもだんだん心を開いていきます。
ドナルドの自作の小屋はどうなるのか、
負債を抱えたエミリーはどうるのか、
そしてエミリーとドナルドはどうなるのか?
ロンドンのハムステッドを取り巻くコミュニティを通して、心温まるストーリーが展開します。
今なら、Amazonプライム・ビデオで、無料で視聴できますよ。
(2025年8月現在)
2 ロンドンらしさが垣間見えるストーリー
舞台となっているハムステッドは、ロンドンの北部に位置する誰もが憧れるようなエリアです。ハムステッド・ヒースという広大な緑の公園が広がり、ロンドン在住日本人にも人気です。有名なミュージシャンであるスティングやジョージ・マイケルも、ハムステッドに住んでいるそうです。
エミリーの生活は、あー、ロンドンだ!という場面がいくつもありましたので、取り上げてみたいと思います。
*チャリティーショップでボランティア
ロンドンには、チャリティショップと呼ばれるセカンドハンドの寄付された物品を安価で販売し、売り上げも寄付金に使うお店がたくさんあります。そして、そこの運営は地元の人たちのボランティアで成り立っています。
このチャリティショップ、私もよくのぞくのですが、なかなか楽しいのですよ。
食器や雑貨の他、衣類や本、DVDやレコードなどアンティークな掘り出し物も見つけられます。
ロンドンのどこの街にも、数件のチャリティショップがあるのです。
私も、不要になったものは、チャリティショップに寄付させてもらってます。
*公園でボランティア活動をする若者たち
ハイドパークやリージェントパークなど、ロンドンには有名な公園がいくつかありますよね。それ以外にも、ロンドンには緑が広がる緑地公園が至るところにあり、人々の生活と密着しています。
そして、そこでは地域の人たちによるボランティア活動が積極的に行われています。
町の清掃であったり、生息物の保護活動であったり。
映画の中でも、若者たちが積極的にボランティア活動を行っていましたね。

*コミュニティの力
エミリーもコミュニティの会合に参加していました。ロンドンではコミュニティの力がとても大きいのです。人種や年齢など関係なく、みんなで協力しあって生活する。そんなコミュニティによって助けられている人たちがたくさんいる、それがロンドンという町なのです。
*雨漏り
映画の冒頭のシーンを見逃さないでください!
エミリーが目覚めた時に雨が降っていました。そして、慌ててベッドから出てリビングへ行くと、雨漏りがしていましたよね。
ロンドンは古い建物が多く、雨漏りがよく起こるのです。
私がロンドンに引っ越してきて、初めて住んだ家でも雨漏りが起きました。それから、職場でも雨漏りが発生しています・・・
ロンドンでは”あるある”シーンなのです。
*大英博物館
エミリーとドナルドが町中へ出かけた後、大英博物館に行っていました。
やはりロンドンと言えば、大英博物館なのです。
ロンドンを訪れる観光客の人気の場所ですが、イギリス人にとっても、大英博物館は何度足を運んでもとても興味深く、楽しめる場所なのですね。
大英博物館について書いた記事も、是非のぞいてみてください。
旅がもっと面白くなる! ロンドンの大英博物館ってそもそもどんなミュージアム?
3 実話にもとづいているストーリー
この『Hamstead』、邦題『ロンドン、人生はじめます』は実話にもとづいているのです。
エミリーはフィクションの登場人物ですが、ドナルドには実在していたモデルがいました。
ハリー ハロウズ Harry Hallowesというアイルランド人です。
彼はホームレスの状態で、ハムステッド・ヒースに20年以上も住んでいたのです。
彼のことが取り沙汰されたのは、彼が住み着いた土地を所有していた不動産業者が、その土地にラグジュアリーアパートメントを建設しようと動き出してからでした。
ハリーには映画のドナルドのように、力を貸してくれた女性はいませんでした。
しかし、ハリーはコミュニティの人たちに助けられ、自然の中で自給自足の生活をして20年以上も住み続けたのです。
THE Sunの記事の中で、ハリーが語っていた言葉が紹介されていました。
” I’m quite happy here with all my friends and all the natures”
私はここで友人たちと自然に囲まれて、幸せだ
この映画が制作されることになった際、ドナルドを演じた俳優ブレンダン・グリーソンは、ハリーを訪問したそうなのですが、ハリー自身は映画化にはまったく興味がなかったようです。
そんなハリーは、映画が上演される前に、2016年2月に80歳で亡くなりました。
THE Sunの記事には、実際のハリーの小屋も写真で紹介されており、とても興味深いです。
が、映画のネタバレとなりますので、まだ映画を見ていない人は、先にどうぞ映画をご覧くださいね。
https://www.thesun.co.uk/tvandshowbiz/3837608/mystery-harry-hallowes-hampstead-film-story-brendan-gleeson-diane-keaton/
4 日本語タイトルと原題の違い
冒頭でもお話しましたが、この映画の原題と日本語のタイトルはかなり違っています。
原題:『ハムステッド Hamstead』
日本語:『ロンドン、人生はじめます』
ロンドンに住んでいる人たちにとって、ハムステッドという地名は誇り高い地名であり、タイトルを見ただけで、興味を掻き立てられます。
けれど、ロンドンに詳しくない日本人が、”ハムステッド”と聞いてもなんのことだかさっぱりわかりませんよね。
それで、邦題を思い切って変えたのだと思われます。
”ハムステッド”を知っている者からすると、なんであの”ハムステッド”という地名を使わずに、全く違うものにしてしまったの? という残念な気持ちもありました。
けれど、実際私も、この映画に飛びついた理由は、”ロンドン”という地名と”人生はじめます”という言葉からでした。
やはり翻訳の方は、プロフェッショナルですね!
ドナルドがエミリーのフラットを訪れた時に言っていました。
エミリーの家は、“someone else’s life” 他の誰かの人生のようだと。
そして、今が “New beginnings” 新しいはじまりだと。
人生に決まった形はないのです。
自分で作った小屋に住んでも、心から信頼できる、助け合える仲間がいれば、自分らしく、幸せに生きていけるのですね。
そして、いくつになっても、新しくはじめられる、そんなことを教えてくれた映画でした。
最後のエミリーの生活はとてもステキでした。
些細なことからでも、New beginningsを見つけていきたいな、そんな気持ちになりました。
後から知ったのですが、ドナルドを演じたブレンダン・グリーソンは、ハリー・ポッターの映画で、マッドアイ・ムーディーとして登場した俳優さんでした。
ムーディー役もとてもお似合いでしたね。